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蓮、いじける
11月入ってすぐの三連休。源と匠ちゃんが幹事で、なごみ亭の懇親会を開いた。以前に一度予定を立てたが、その時は皆都合が合わず流れてしまった。だから第一回だ。
初の幹事で匠ちゃんはドギマギしていたが、源と一緒だ。定番のボーリングなら誰でも出来るだろう、とすぐに決まった。
参加者はスタッフに加えて、為ちゃん、沙耶、のんの、見ているだけだがAnnaと純ちゃんのお姉さんが来る。お姉さんはしのぶさんと言って、色白で小柄なチャーミングな人だ。
待ち合わせはボーリング場。当日は朝から蓮のご機嫌が良く、シャワーでは鼻歌が出ていた。ジェイにはなんの歌か分からなかったが。
人前でのボーリングは久々だ。やはり得意なものを披露するのは気持ちがいい。だがマイボール、マイシューズを出してジェイに怒られた。
「みんなが委縮しちゃうよ! レクリェーションなんだからそういうのはダメ!」
「いいじゃないか、これくらい」
「ダメ!」
ちょっとごねてみたが、ジェイの言うのも尤ものような気がする。駄々をこねるのも良くない、と蓮は我慢した。
集まったメンバーは総勢13名。3つのレーンを予約してある。2時から始まって、その後は焼き肉屋に行く。優勝の賞品はクィーンホテルディナー付き宿泊券。準優勝はディナー券だ。
これについても蓮はジェイに言い含められている。
「蓮、優勝しないよね?」
「俺、得意なんだぞ」
「しないよね? 蓮が優勝してどうすんの?」
だから不本意だが実力発揮とはいかない。
「いいよ、ひろとボーリング行くから」
拗ねたように言う蓮をジェイは厳しい目で見た。
「蓮、我がままだ」
さて、ボーリングは蓮の思いは脇に置いて、すごく盛り上がった。全3ゲームなのだが、為ちゃんが上手い。そして純ちゃん、匠ちゃんがその後を追う。
第一ゲームでは為ちゃんが172スコア。純ちゃんが167、匠ちゃんが152。蓮はぐっと堪えて150。
第二ゲーム。純ちゃんが169、匠ちゃんが160、為ちゃんがちょっとミスが多くて158。ついでに言うと、蓮は144。
そして、第三ゲームで決着だ。
「純! 頑張って!」
白い肌に上気したような赤い頬でしのぶさんが声を張り上げた。学生時代から入院しがちだったというしのぶさんは、こういう機会に恵まれなかった。嬉しそうに手を叩いて弟を応援する姿がとても愛らしい。
「Renji 、ジェイ!」
Annaには裏事情を話していないから、蓮は応援に心苦しくも手を上げた。
「お兄ちゃん、勝って!」
沙耶はホテルで宿泊したい。
「為ちゃん!」
眞喜ちゃんだって女の子だ、ホテルのディナーが食べたい。
この時点で合計スコアは、純ちゃん336、為ちゃん330、匠ちゃん312スコアだ。
最終ゲームは大接戦だった。だが途中で為ちゃんが2度スプリットでスペアを取れず。純ちゃんはターキー(ストライク3回)、匠ちゃんはダブルを取った。
ジェイは蓮の口がちょっとへの字になった瞬間を見て(ごめんね、蓮)と心の中で謝った。負けず嫌いの蓮がどんなに悔しい思いをしているか、手に取るように分かる。だが仕方ないのだ。
結局、純ちゃんが大幅にスコアを伸ばし、527で優勝。匠ちゃんが486で準優勝。為ちゃんは匠ちゃんと1ピン差で485スコアとなった。
ちなみに蓮は433スコア。為ちゃんに「今度ボーリングのコツを教えてあげましょうか。あと少しフォームを直せばかなりいい線いきますよ」などと言われている。思わずジェイは蓮の腕に手を載せた。
「蓮、頑張ったね。俺が頑張ったの、知ってるから」と何度も繰り返した。
焼肉では為ちゃんとAnnaが焼き方に回った。
「皆さん、普段料理作ってるんだからたまにはゆっくりしてください」
そんな優しい言葉が出る。為ちゃんは善意の人だ。そして善意からの言葉が出る。
「私の良く行くカラオケに行きませんか? 会社でよく使うんでVIPルームに入れますよ」
蓮の「いや、」という言葉は歓声の中に搔き消えてしまった。
カラオケの建物の入り口。蓮がぐずる。
「ジェイ、俺は嫌だ、入りたくない」
「だってここで蓮が帰ったらみんな気にするよ!」
「嫌だ、俺は嫌だ」
「蓮! 今日は我慢して! 喉が痛いから歌えないって言えばいいから」
なによりも、純ちゃんのお姉さんが嬉しそうなのだ。みんなもそれを見てほのぼのとした気持ちになっている。蓮にしてもこれ以上は大人げない、と泣く泣くVIPルームに入った。そして、歌えないから、とタンバリンやマラカスを振った。
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