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宝探し
夕食後のイベント『宝探し』は、不思議な構成で行われた。司会は高田だ。
「みんなで楽しめるようにと、『宝探し』を企画しました! これは二本立てとなっています。宝は、全員一つまでです。一つ見つけたら終わり、ということです」
「なんだよ、それー」
「宝見つけたら後は寝るだけか?」
そんな声が上がる。
「いえ、宝を探しながら碁石を集めてください。黒、白の色は関係ありません。その数を競います。その途中で他の宝を見つけても触らないように。宝は人数分しか無いのでズルをすればすぐに分かりますし、皆さんの良識を信じたいと思っています」
「しないよ、そんなこと」
「どーだか。そんなこと言うお前が怪しい」
毎年恒例の社員旅行のイベントはお酒なしで盛り上がるのに持ってこいだ。だからこそ、幹事の手腕が問われる。
「宝物は百均で買ったものばかりです。ゲーム終了後、戦利品を交換し合っても構いません」
「百均かよー」
大爆笑だ。確かに48人分を用意するなら百均が一番手ごろだ。
「その宝の中に、プレミアムアイテムが一つあります」
「プレミアムアイテム?」
それは澤田も聞いていなかった。だが嬉しい。こんなちょっとしたアイデアこそがイベントをぐっと引き締める。
「それが何かはゲーム終了後に発表します。その宝を手にした人には景品がつきます!」
テーブルの上に人数分のお椀が置いてある。それを横山と谷崎が配り始めた。
「そのお椀に見つけた碁石を集めてください。碁石はこの寮に2組ありました。だから数は722個あります。一か所に3、4個あったりもします。入賞は7位まで。こちらに封筒を用意しました。その中のメモが景品の交換券です。実物は帰りのバスを降りた時にお渡しします」
これなら大人も子どもも楽しめる。探す範囲は、安全を考えて風呂とトイレを除く1階のみとなっている。
「用意、スタート!」
司会の号令と共に人が散らばっていった。まさなりさんもゆめさんもお椀を持って楽しそうだ。Annaは実際の碁石を見せてもらって参加した。その碁石もさっと幹事がどこかに隠す。後で見つかっていない碁石を回収しなければならない。そのために、見取り図まで作ってある。
探すことのできない子ども、例えば中山家の有や小野寺家の智実などの宝は、家族が手に入れていいことになっていた。
「トイレのたわし……」
「垢すりだよ」
「ゴミ袋」
「すりこ木……」
ちょうど欲しかった! という者もいるが、たいがいが笑えるものだ。どうやって持って帰ろうかと悩んだり。こんな物でも充分盛り上がる。
廊下ですれ違ったジェイと蓮。
「ね、宝見つけた?」
「見つけたよ。宴会用のちょび髭。後でつけてみろって言われそうだ。お前は?」
「俺、ヘアゴム」
途端に蓮の目がきらりと光った。これこそ蓮の望む宝だ。
「じゃ、碁石の競争だな!」
「うん!」
こういうことは子どもの方が上手だったりする。今のところ1位は花月の24個だった。次が大人げなく一生懸命に探している哲平21個。そして、大人げない大人が野瀬と桜井同数で19個。けれどその個数もあっという間に塗り替えられていく。
景品が何なのか。自分がもらうよりもそれを知る方が楽しみな者が多数。
まさなりさんとゆめさんは2人一緒にのんびりと探していた。こんなに楽しい遊びが世の中にあるのかと、わくわくしながら戸棚などを覗いている。
「まさなりさん、私、靴を磨くクリームを見つけたわ」
「私は小さい手鏡だよ。ゆめさん、交換しよう」
「ありがとう」
「どういたしまして」
そばを通りかかった翔と優香はほのぼのとしてしまった。
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