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夢から覚めて?
翌朝、目が覚めると、そこはいつものアスメディク家の私の部屋。
昨夜の夜会は、まるで夢のように思えたけど、寝起きの頭がはっきりしてくるにつれて、ちゃんと現実だったと実感してきた。
今日は淑女教育もお休みだし、なんだかモヤモヤしてやる気も出ない。また寝ちゃおっかな、とベッドに潜りこむと、ドアをノックする音がした。
「エルラ様、おはようございます。起きてらっしゃいますか? 」
侍女の声だ。ここは寝たふりしちゃおう。
布団を被って、だんまりしていた。
カチャリ。ドアを静かに開ける音がした。どうやらそっと中の様子をうかがってるみたい。動いちゃダメ、動いちゃダメ。
「エルラ様、朝食のお時間はとうに過ぎていますが…」
えっ、そうなの? ちょっと寝すぎちゃったみたい。昨夜よっぽど疲れたんだな。
「旦那様たちに、今日は疲れているだろうから、ゆっくり寝かせておくようにと言われてはいますが…、さすがにそろそろ…」
って、そんなに寝ちゃってたの?
「…今、何時? 」
そっと布団から顔を出して尋ねると、なんと目の前にフェタがいた。
「やっぱり! エルラ、起きてたね」
「フェタ!? なんでここにいるの? 」
「ほら、例のお茶会のときに、私、今度はアスメディク家で奉公しようかなって言ったでしょ」
「それで本当にアスメディク家に来たの? 」
「そうよ。もう3か月くらい経つわよ。エルラとは会う機会がなかっただけ」
そうだったんだ。淑女教育に忙しかったしなあ。
「あっ、ところで私、そんなに寝坊した? 」
「少しだけね。朝食の時間が過ぎたのは本当。実際、旦那様たちには、寝かせておいてやれって言われてるから大丈夫。ギエナ様も、まだ眠ってらっしゃるわよ」
「なーんだ」
それを聞いた私は、またパタリとベッドに寝転んだ。
「せっかくだから、もう起きたら? おいしい紅茶、淹れてあげるよ。あんたんとこのカイトス領産のやつ」
「そうねぇ…」
「どうしたの? 元気ないじゃん」
「別に…」
「フォルキーナ王女のことでしょう? 」
私はびっくりして飛び起きた。
「なんで、知ってるの!? 」
「よし、起きたね」
完全に目が覚めた私は、仕方なく着替えて支度を整えた。
その間にフェタが、紅茶と軽食を用意して、私の部屋に持ってきてくれた。フェタは給仕をしながら話し始めた。
「王太子様がまだ小さかったころ、政情が不安定で、国境近くの隣国の田舎町で過ごされていたでしょう。その政情不安定の原因が、隣国の王族の派閥争いだったんだよね」
「うん。それは知ってる。うちの国は隣国と同盟国だったから、分かれた派閥の両方と連絡をとって仲をとりもとうとしてたって」
「そうそう。そしたらその派閥がそれぞれ、うちを味方に取り込もうとしたりして、関係がややこしくなっちゃってね。だから幼い王太子様と王妃様は避難したの。その村に、フォルキーナ王女も身を隠していたんだって」
「それじゃあ、おふたりは小さいころ、そこで会ってたの? 」
「そう。年も近いし、一緒に遊んだりしてたみたい」
「ふうん。フォルキーナ王女のお父様は、隣国の現国王だよね」
「うん。派閥争いは結局、フォルキーナ王女のお父様である現国王が治めて、不穏分子は捉えられたり追放されたりしたそうだよ。政情が落ち着いて、フォルキーナ王女も王太子様たちも、それぞれ帰ることになったんだけど…」
「だけど? 」
「その時に、幼馴染にはよくある話の、大きくなったら結婚しましょうね、ってな約束が、されたとか、されないとか…」
「あー…」
なんだか背中にズズンと重いものが乗っかってきた…。
「まあ、したとしても、子ども同士の約束だからね! 正式な拘束力なんかは、なーんにもないわけよ」
「それは、そうだけど…」
当のフォルキーナ王女や王太子様の気持ちは、どうなんだろう? そんなことがあったとも知らずに、浮かれてお后教育なんてしちゃって、私、バカみたい。
「エルラ、食べないの? このスコーンおいしいよ」
「どうしてフェタが食べてるのよ」
「まあまあ、いいじゃない」
「あーあ。私、帰ろうかな、カイトスへ」
「ふうん…。まあ…、それもいいかもね」
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