ヒーローは眠らない

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『カザマライダー風間(かざま)シロは改造人間である』 シローではなくなので注意してくれ。 いや、犬じゃない……改造人間だ。 どこが改造されたのかって? 腕と脚と、頭と尻と…… と、とにかくあっちこっちだ。 『彼を改造したデーモンは、世界征服を企む悪の秘密結社である』 変な化粧したロック歌手かって? いや、それピーだろ。 え…… ややこしいって? まあ、そう言われても…… と、とにかく悪いヤツらなのだ。 『カザマライダーは、人間の自由のためにデーモンと闘うのである!』 ―――――――――――――― 「あとは変身ポーズだな」 そう呟くと、俺――風間シロは鏡の前に立った。 「変身っ!」 両手を(そろ)え、半円を描きながら叫ぶ。 うむ……いまいちインパクト無いか…… 「へ〜んしん!」 今度は両手を広げ、胸元に引き寄せる。 かんたん過ぎるな…… 「へっ…………………………しん!」 うずくまった体勢から一気に体を開く。 ダメだ……タメが長くて「ん」が飛んでしまう。 俺はブツブツ言いながら、机上のノートを手に取った。 パラパラとめくると、手の上に水滴が落ちた。 目の前に(もや)がかかる。 どうやら俺の涙らしい…… どうしたのかって? 急に、言いようの無い(むな)しさに襲われたのだ。 理由は簡単…… 。 デーモンとの自由をかけた闘いが起こらないのである。 ヤツら俺を改造して二か月も経つのに、一向に世界征服を始めようとしない。 おかげで、暇にまかせて書き貯めた変身ポーズ集も、ノート十冊を超えてしまった。 まったく何考えてんだ、アイツら…… 一応アジトの場所も分かってたので、手紙を出してみた。 ――征服はいつ頃になりそうっすか? そんな文面を送ってみた。 だが、いまだ返事は無い。 これじゃ蛇の生殺しだ。 闘わないヒーローなんて、ヒーローじゃない。 そもそも、なんで改造なんてしたんだ。 そりゃ子どもの頃、テレビの変身ポーズに(あこが)れたことはあったさ。 だが、ホントに改造してくれなんて頼んでない。 睡眠薬を飲まされ、眠りこんだ間にやられた。 目が覚めると、白覆面の奴らがベッド上の俺に言ったんだ。  手術は終わった―― ――と 怖くなった俺はそこからこっそり抜け出して、自分のアパートに戻って来た。 しかし、いつかは見つかってしまう。 俺は気を取り直して、闘うことにした。 そして来るべき日に備え、変身ポーズ、決めゼリフ、必殺技の考案に注力した。 どうせ改造されたんなら、とことんヒーローぽく振る舞ってやる。 愛車レインボー号も購入した。 勿論バイクの免許など無いので、だ。 赤と青の車体にちなんで、レインボーと名付けた。 バイクっぽく見せるため、サドルは限界まで上げてある。 前かがみになると、それらしく見える。 たまに足が地につかず横転したりするが、まあ仕方ない。 俺はヒーローなのだ。 細かいことはいい。 俺は涙を拭き鼻をかむと、テレビのスイッチを入れた。 あちこちのニュース番組をチェックするが、やはりヤツらに関する事件は無い。 そもそも「」と注釈がつく訳では無いので、分からなくて当然だ。 一応メアドも知ってたので、メールを送ってみた。 ――貴殿の起こした犯罪には目印をお願いします。 そんな文面を送ってみた。 だが、いまだ返事は無い。 ええい、もうガマンならん! 待つのも限界だ! こうなったら直接アジトに乗り込んで、直談判(じかだんぱん)してやる。 お前ら、俺を改造人間にしたんだろ! なら最後まで責任持てよ! 手紙もメールも無視とは、どういう了見だ! なんなら出るとこ出てもいいんだぞ! それが嫌なら、さっさと世界征服始めろ! そして俺と闘え! 変身ポーズは五つに絞ったから、最低でも敵は五人用意しろ! あ、軟体動物系はダメだぞ! 俺はタコアレルギーだからな! あと変身ポーズは十秒ほどかかるから、そこんとこ空気読めるヤツな! 必殺技はジャンプしてからキックだぞ! もう一度言うからな! ジャンプ……キック……オーケー!? そして最後の決めゼリフはこれだ! 「お前たちに朝は来ない……フッ」 くれぐれも、最後のフッまでがセリフだからな! 言っとくが「朝が来ない」てのは、目を覚ますことはないという意味だ! 俺が寝る間も惜しんで、お前ら全員倒してやる! いいか、分かったか! この悪党どもっ!! 俺はその場で変身し、レインボー号を走らせた。 ―――――――――――――― 「厨二病もいいかげんにしてください!」 受付の窓から、年配の女性が怒鳴る。 歪んだ顔が。 「おかしな手紙やメールまで送りつけて来て……まったく、何考えてるんですか!」 「体の吹出物(ふきでもの)、せっかくキレイになったっていうのに……」 「ちょっとは歳を考えてください!」 「今度やったら、診察お断りしますよ!」 敵の波状攻撃を受けた俺は、一旦撤退することにした。 受けたダメージが予想以上に大きく、用意したセリフを一つも言えなかったからだ。 恐るべし、デーモンの怪人…… アジトを脱出し振り返ると、不思議な光線を放つ物体が目に入った。 戸口に掛かったそれには文字が刻まれていた。 『整形』
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