もう少し、を絶つ仕事

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 中毒性の高いものほどあともう少し、もうちょっとだけ、これぐらいなら大丈夫。そんなふうにもっともっと、と求めてしまう。限りがない、終わりがない。  酒、タバコ、ギャンブル、甘いもの。一見すると他人に迷惑をかけない、しかし最終的には周囲に迷惑しかかけないもの。こいつには何を言ってもだめだと愛想をつかされ、周囲からは人がいなくなる。似たもの同士が残っていく。  カウンセラーの新堀は医師会の勧めで数年前特別病棟にやってきた。  精神疾患の患者が入院しているこの病院は一般人の面会は禁止、担当する医師も様々な審査があるという。  仕事とプライベートをきっちり分けられる人、患者に深く同情しない人、機密事項を人に話したりうっかり漏らしたりしない自己管理ができている人。様々な条件がある中、新堀がこの病棟でとあるケースを担当することとなった。  新堀が担当するのは中毒者たち。依存症と呼ばれる人たちの心のケアだ。例えばアルコール中毒の人にアルコールを飲ませないことは簡単にできる。外出禁止、与えられた飲食物のみ食べて過ごしていればアルコールは絶てる。  しかし依存しているものというのは脳内に幸せを感じる物質を分泌するので、与えられない、目の前にない事は過度のストレスとなり逆に体調崩してしまう。いかに現物を与えずに心のケアができるか。医者と同じくらいカウンセラーも責任が大きい。 「先生頼むよ、ちょっとだけいいじゃないか。最近はすごく体調がいいんだ」 「せっかくここまで飲まずにきたんですから。欲しいという気持ちに今勝てればこの先退院だってできますよ。今が踏ん張りどころです」 「そうは言うけどさぁ。ここって毎日代わり映えしないから、何かご褒美が欲しいんだよ。ノンアルコールだったらいいだろう。少しだけだから」 「アルコール云々ではなく、何かコツコツできる趣味でも探しましょう。クロスワードでもいいし、何かを作ってアプリで売ると言うのもいいですよ。根本さん手先が器用ですし、何か模型を作ってみては。お嫌いでなければ女性向けのアクセサリーとか人気です」
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