【1】バイト君

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【1】バイト君

「お疲れさまでしたー」 「おう、お疲れ~」 「お先に失礼しまーす」 バイト先のコンビニを出ると体をグルンと回す。 気持ち良いくらいにコキコキッと関節が鳴った。 「はぁ~、やっぱ立ちっ放しはキッツイなぁ」 腰をトントンと叩きながら歩き出したその時 「お疲れさまでした」 「お疲れさま~。明日もよろしくね」 「はい。お休みなさい」 5メートルほど先にある花屋のドアが開いて、中から “アイツ” が出てきた。 「じゃあな。明日も綺麗な花を咲かせてくれよ」 店先に飾られている花たちに屈んで声を掛けると、そっと優しく撫でてから立ち上がる。 「こんばんは」 軽く下げられた頭の上で、小さく跳ねた黒髪がふわりと揺れた。 「ども…」 ぎこちなく頭を下げて返事をすると、にっこりと笑った “ソイツ” はスタスタと歩いて行ってしまった。 あぁ~~っ!もうっ!何やってんだよ、俺は!! 折角のチャンスだったのに行っちまったじゃねえか!! 緩やかに吹いた夜風に乗って、 “アイツ” の残り香だろうか甘い香りがふわっと漂った。 「…イイ匂い……」 思わず呟いた俺をまるでクスクス笑うかのように、バケツの中の花たちが揺れた。
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