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ノゾミ
「人間にしてくれ」
突然現れた変な生き物に、食い気味に望みを口にする。
ただ、礼を伝えたかった。
野生で命を落とすのは仕方のないことだ。運命だったのだと、運がなかったと、それまでだったのだと諦めるしかない。
しかし助けられてしまえば、その恩に報いるためにも生きなければならない。そう思っていた矢先、ねぐらに現れたのは見たことがない生き物だった。
「ノゾミヲヒトツダケ、カナエテヤル」
そう言われてすぐに、決めていた。一度捨てたような命だ。しかし、一目会って礼を伝えられるなら。同じ言葉を交わすことが出来るなら。あの時つたえられなかった思いを。
カラスに生まれたことを不幸だとは思わない。しかし人間という発達した生命のすぐ側で、付かず離れず、距離を保ちながら見てきた。人間という生き物がとても優れていること、恵まれていること。
そんな人間のおこぼれを頂きながら生きてきた、今までの時間を無駄だったとは思わない。しかし、羨ましく感じない訳もない。
人間にだって苦労はあるだろう。どんな生命にも苦難はある。その中で、どんな幸せを見つけ、掴みとり、生きていくかがきっと大事なことだ。
そして俺は、今大転機を迎える。
これをチャンスだと思わない奴はいない。賢くないと生きていけない。
「……イイダロウ。オマエノノゾミハ"ニンゲン二ヘンシンスルコト"ダナ」
首をかしげながらも、どこかニヤリと面白そうに笑うこの生き物は、微妙に不愉快だし、明日の朝食にしてやろうかとも思わなくもないが、我慢する。
「それでいい」
「ヨガアケタラ、メガサメル。チニアシヲツケテ、ネムルガイイ」
言われた通りにするのには、すごく葛藤した。鳥であるゆえ、地面で寝ることは習性的に受け付けない。
妥協案として、建物の屋根で眠ることにした。天敵に見つからないよう、仲間からも離れ、影に潜んで、目を閉じる。
朝日が昇り、目を開けたら、全てが変わっていた。
でも何も怖いことはない。
あの人間を、探すんだ。
高校の屋上で見つかった少年は、艶やかな黒髪に知性を讃えた真っ黒な瞳。
しばらくして記憶障害と、身元不明で保護された。
*end*
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