第二章:口渇の原因

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 靴を脱ぎ、お邪魔しますと小声で告げてから真っ直ぐ奥へ進むと、それほど広くもないリビングに辿り着く。 「…………」  そうして、最初にあたしが目にしたのは、怯えた子供のような瞳でこちらを見上げる、一人の女性。  先生の婚約者、穂奈江さんの姿だった。  傍から見てもやつれているのが一目でわかるその様子から、今日までずっととり憑いている霊によって苦しめられてきたことが読み取れる。 「はじめまして、依因夢愛です。今日はよろしくお願いします」 「……こちらこそ、よろしくお願いします」  弱々しく擦れた声で挨拶を返してくる穂奈江さんへ頷いて、あたしは肩にかけていたバックを下ろし、中から一丁の拳銃を取り出した。  と言っても、もちろん本物の拳銃ではない。  その辺の百円ショップで購入した水鉄砲がその正体で、あたしが仕事をする際にはこれがメインの道具となっている。 「おい、依因。そんな玩具を出して、いったい何をするつもりなんだ?」  あたしの後ろにつくかたちで立っていた先生が、不審そうに声をかけてくる。
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