二葉7

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兄貴の事も思い出すが、兄貴とも正月少し会ったのもそうだが。 クリスマスイブの夜。 朝迄二人で、色々と話した。 すげぇ、楽しかったな。 だから、もう話す事もないな。 そう思い、持っていたスマホをテーブルに置いた。 ソファーから立ち上がり、掃き出し窓の方へと行く。 カーテンを開けると、昨日のように月が綺麗だった。 "ーー月が綺麗ですねーー" あの女が、俺に言った。 たまたまなのか、知っててなのか。 昔、うちの母親が俺達兄弟に話していた。 うちの父親が、付き合い始めの頃に、母親にそう言ったと。 うちの父親は、夏目漱石のそれとか知らなくて、本当に月が綺麗だと思ってそう言ったらしいが。 母親は夏目漱石のそれを知っていて、それを受け止めるように、 死んでもいいわ、と口にしたらしい。 そうしたら、何も分かっていない父親は、その死ぬとかいう母親の言葉に慌てていた、とか。 結局、母親はその言葉の通り死んだが、 もし、そうやって死ぬと分かっていても、 うちの父親と一緒になったんだろうな。 あの女も、そのタイプっぽいから、厄介だったな。 月が綺麗だとかが愛の告白だってのには、いまいちピンと来ないが。 死んでもいいわ、という言葉は分かる。 俺も、あいつの為なら、死んでもいい。 さて、行くか。 俺は、月を隠すようにカーテンを閉めた。 前に兄貴に買って貰った、アルマーニのスーツでも着て行くか。 汚したくなくて滅多に着てなかったが、 最後なら、もう汚れてもいいか。 (終わり)
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