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 そうは言っても気楽でいられる立場というのは重要だ。警察官という身分がバレたとしても命を奪われないような、当たり障りのない立場だ。そういう場所から情報を探る程度にとどめなければ冗談ではなく本当に死ぬ可能性がある。  しかし最近はそう呑気に構えていられない状況になっていた。この一か月間で清山紗香の周りのヤクザが三人も殺されたのだ。  始まりは春日辰巳。阿頼組の二次団体である奏我会の構成員であり、紗香の婚約者だ。そこから立て続けに二人が殺された。いずれも阿頼組傘下の組織で勢いがある有望な若手であり、紗香が春日と婚約するまでは彼女の周りを動き回っていたヤクザだった。  被害者の共通点を考えると、犯人の狙いは『紗香との結婚』である可能性が高い。財産や清山顕吾とのつながりを目的とした殺人ということだ。  そうでなければ、単純にヤクザたちへの怨恨が動機という可能性もある。ヤクザなんて恨まれていて当然だ。  捜査は難航しており、可能性はいくらでも挙げられる状況にある。  場所、凶器、殺害方法など現場に残された痕跡のいずれも共通点がなく、ただ清山紗香の結婚相手になり得るヤクザが被害者であるという点のみが共通していた。  最初の被害者である春日を殺した凶器は倉庫街に落ちていたものと見られており、その凶器からも突発的な犯行のように思えるのに、計画的な連続殺人のようにも見える状況だった。 「暴力で人の尊厳を踏みにじって荒稼ぎするクズが被害者だとしても、殺人犯は放っておけないよな」 「死んだ三人と関わりが深かった清山紗香が『いつも通り』というのは不自然ですよ」 「春日が殺されたときの反応からずっと不自然なんだよ。捜査本部の方も状況は芳しくないって話だし、問題はどこまで踏み込んで動くかだな」 「橘さん」  西野は咎めるような視線を俺にぶつけた。どこまで踏み込むかだなんて、まだまだ経験が浅い潜入捜査官が考えていいことではない。 「わかってるよ、安全第一」 「ならいいんですが。では、そろそろ私は行きますね」  西野はグラスに残ったウーロン茶を飲み干して立ち上がった。そしてふと思い出したように口を開く。
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