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気まずい間を挟み、アラストルは髪の毛を掻き毟りながら言った。
「女神様のご命令とあらば。家に帰るついでだ、行ってきてやらぁ――」
ところが、タチアナは困ったように眉を潜めている。
「ありがとう。でもあの……君が?」
「あ?」
アラストルは凄みを利かせた。
「さすがの俺でも大学で暴れたりはしねぇよ。伝手なら一つ心当たりがある」
「あ、いや、そうじゃなくってね?」
タチアナは言いづらそうに目を逸らす。
「ボクらも学生に紛れられるほど若くないし、君の容姿じゃあその……ちょっとワイルド過ぎるんじゃないかな? 守衛さんに摘まみ出される未来が見えるんだけど……」
「失礼な女神様だな――」
アラストルは徐に煙草に火を点け、嫌がる女医に煙を吹き掛けた。
「ったく、面倒くせぇ――……」
***
『――と言うわけだ。今すぐ来い』
「どういうワケ?!」
エアロンは受話器に向かって叫んだ。電話は談話室にあるため、後ろで寛いでいた椿姫が驚いて珈琲を零す。
『てめぇは毎度叫ばねぇと気が済まねぇのか? いつもいつも大袈裟なんだよ――』
「アラストルが悪いんじゃん! いつもいつも話が唐突過ぎるんだよ!」
エアロンはチラリと椿姫を振り返り、受話器に手を当てながら囁いた。
「なんで僕なの? 国科技研の件からはもう手を引きたいって言ったじゃん」
『一番学生っぽい顔してるからだろ。諦めろ』
電話越しのアラストルは実に怠そうだ。エアロンは苛々を募らせる。
「今までは船長のこともあったし、僕もまあ関心を持ってはいたけどさ。相手は国連の一機関だよ? 僕らなんかの手に負える相手じゃない。無謀だとわかってて関わろうとするのは馬鹿としか言いようがないね」
アラストルはわざとらしく溜息を吐いて見せる。
『薄情な奴だな……ワン公なら喜んで協力してくれるだろうになあ?』
「グウィードは馬鹿だからだよ!」
タイミング悪く部屋に入ってきたグウィードがビクリとしてエアロンを見た。とても傷付いた顔をしている。
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