誰そ彼への想い

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 空しい独り言を繰り返している自覚はあるので、忙しく働いて気を紛らわしたいのだが、弟が店主となった菓子屋の出戻り娘にやる事とてあまり無い。 昨年その弟が嫁をもらうまでは、出戻りだって看板娘として店頭で立ち働いていたのに、今は義妹がその役割を果たしているのだ。 気を使って義姉に仕事をさせないフリをして、もう売り子にもならない不細工な小姑は邪魔だと、そう彼女から思われているようでもある。  おせんの父が元気で、鶴屋の店主兼菓子職人として腕を振るっていた頃は、出戻り娘だっていじけさせられるような環境ではなかった。 だがしかし一昨年前に中気を患い、店主の座を息子に譲ってからは、父は娘の立場を守ってやる事ができなくなったのだ。
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