第1話:ミノネリラ進攻

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   ノヴァルナの戦術遂行能力は、昨年の“フォルクェ=ザマの戦い”というウォーダ家の命運をかけた一世一代の戦いを経て、さらに研鑽されていた。そのノヴァルナが今回のミノネリラ宙域進攻においてまず想定したのが、名将“ミノネリラ三連星”を中心とした主力部隊による迎撃である。そしてこの第九惑星ニレ・マーダンを半ば飲み込む、星間ガスを利用した波状攻撃は、彼等との交戦のために練り上げたものだったのだ。  そのような戦術であるから、実戦経験のほとんどないフィビオやナーガイといった者が、完全に術中に嵌って後手後手に回るのも無理はない話であった。  急速接近するウォーダ家のBSI部隊は総数約六百。対するイースキー艦隊の艦載機は出遅れて、母艦からの発進は続いているものの、現状ようやく二百を越えたところだった。すぐに三倍もの相手に圧倒的不利な戦いを強いられる。  しかもウォーダ軍は全機が、昨年より実戦配備が始まった新型BSIユニット、『シデン・カイ』であるのに対し、イースキー軍は六年前にバージョンアップしただけの、『ライカ』を未だに使用していた。ドゥ・ザン=サイドゥに対する、ギルターツの謀叛。そしてそのギルターツの急死という、一連の急転直下な出来事の発生で、バージョンアップも新型機の開発も滞っていたのだ。 「これは『シデン』か?…い、いや。新型だ!!」  旧型の『シデン』と似たシルエットながら、間合いを詰めて来る速度の速さに戸惑い、目を凝らしたイースキー軍の『ライカ』パイロットが、気付いた時にはすでに手遅れだった。先手を取られた『ライカ』が何機も応戦出来ないまま、超電磁ライフルの射撃で撃破される。  だがノヴァルナの波状攻撃は止まらない。双方のBSI部隊同士が戦闘に入った直後、前進して来た第5艦隊の戦艦と重巡航艦部隊が、主砲射撃を始めたのだ。目標は無論、イースキー軍の戦艦と重巡である。  これはイースキー軍にとって、最悪のタイミングだった。敵宙雷戦隊群の陽動から、陣形を立て直そうとしていた矢先にBSI部隊の襲撃。そこに戦艦・重巡部隊からの砲撃。全く違う戦闘局面を次々に作り出されて、イースキーの三個艦隊は大混乱に陥った。 「何をしている。応戦しろ!」 「こちらの宙雷戦隊は、まだ雲海から出てこないのか!?」  それぞれに叫ぶフィビオとナーガイだが、具体的で効果的な命令などではなく、自分の感情を吐露しているだけであったら、事態は好転するはずもない。  
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