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プロローグ――爪坂美蘭はご機嫌ななめ
「わたし、帰るわ!」
爪坂美蘭はくるりときびすを返すと、男を置いて逆方向に大股で歩き出す。秋らしい茶系のロングスカートが歩調に合わせてひらりひらりと揺れる。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
男はあわてて追いかける。
「どうしちゃったっていうんだよ」
おろおろと動揺しつつも追いついて、歩きながら尋ねる。
晴れた日曜日の午後。都会の繁華街は大勢の人出で賑やかだ。ビルの間にいわし雲が空高く。しかしそんな天気とは裏腹に、美蘭の心はどんよりと曇っていた。
「もう我慢できないのよ。ひどすぎる」
立ち止まらないうえに振り向きさえせず、美蘭は答えた。
「なにが悪かったんだよ。言ってくれたら改めるよ。機嫌なおしてくれよ、な?」
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