神馬に乗って駆ける

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 今、どこにいますか? お父さん。  私、今日、花嫁になるよ――。 *** 「お化けが出るぞ~」  お父さんが、両手を広げながら、追いかけて来る。私は、きゃあきゃあ言いながら、森の中を逃げ惑う。  森を抜けて本殿の前へ飛び出ると、 「捕まえた!」  お父さんに、がばっと背後から抱きしめられ、私は叫びながらも大笑いをした。  家の近所には大きな神社があって、神様がいらっしゃるという本殿の裏手には、鎮守の森が広がっていた。その神社は私とお父さんのお気に入りの場所で、お父さんが仕事が休みの日は、二人でよく遊びに来ていた。  本殿の前で笑い転げていると、袴姿の宮司さんが近づいてきて、 「こんにちは」  と挨拶をした。 「神社にお化けは出ませんよ。神域ですから」 「そうなの?」  小首を傾げた私に、宮司さんは「そうですよ」と笑う。お父さんが、苦笑しながら頭をかいている。 「いつもお参りに来て下さってありがとうございます」 「そういえば、もうすぐお祭りがありますね」  お父さんは、境内のあちこちに吊り下げられた提灯を見ながら、宮司さんに話しかけた。会社の名前や人の名前が書かれた提灯は、普段は無いものだけれど、お祭りの時期になると現れる。 「ええ。良かったら、お祭りにも来て下さいね」  宮司さんはそう言うと、会釈をして社務所へと戻って行った。
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