恋には恋を

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恋には恋を

「ごめん」  一世一代。勇気を作り、振り絞った告白。初恋であり、半年も、こじらせ続けた七海の思いは、三文字で拒絶された。  積もった恋は、およそ三秒もない時間で、終わりを告げられた。 「そう、こちらこそ、ごめんね」  謝罪をされたら、どうしようもない。それでも好きだと伝えても、未来はないだろう。自分の気持ちを、一方的に押しつけることに、意味はない。  放課後。夕日に照らされる屋上。遠くの方で、部活のかけ声が聞こえてくる。おそらく運動場からだろう。先ほどまでは、緊張から耳に入ってこなかった。今は絶望で無音になると思ったが、自分は案外冷静だったらしい。覚悟していた、というより、予想していたのかもしれない。  彼は私のことを、友人以上に見てくれない。  七海は諦めていたのだ。振り向いてもらえるわけないと。後ろ向きな考えを恥じて、唇を噛みしめた。冷や汗で張り付いたシャツが、気持ち悪くて、今すぐに逃げ出したくなる。 「ほんと、ごめん」 「ううん、気にしないで」  うまく笑えているだろうか。自信がない。引きつっているに違いない。声だって、無理して明るくしているのが、丸わかりだ、震えて情けない。証拠に目の前の男が、七海を見て、悲しそうに顔を歪めていた。泣きたいのはこちらだ、七海は心の中で毒づいた。
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