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「ありがとうございます、1300円です」  桐谷(きりや)は立ち上がり、同人誌の代金を客から受け取った。  先程から慣れた手付きで桐谷は真顔のまま金銭授受を繰り返す。客たちが買って行くのは表紙に成人向け・18禁と書いてある、二次元特有の重力無視された巨乳女子たちが卑猥な姿で描かれた漫画の数々である。  このエロ漫画の作者は桐谷ではない──。  桐谷はあくまでも売り子と呼ばれる店番であり、雇われだ。本来の作者は別にいて、訳あって直接参加できないため桐谷はここにいる──。  彼自身、こういったサブカルチャーな世界には全くもって興味もなければ知識もない。なので客とのやり取り以外は基本スマホを眺めて時間を潰していた。 「(ねみ)ぃな……早くおわんねーかな……」  本が売り切れるのが先が、イベントが終わるのが先か──。  桐谷はお世辞にも態度が良いとは言えない、大きな身体をのけ反らせ、退屈そうにパイプ椅子にもたれかかった。
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