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1ー1 裏切られた国王
不穏な気配は予兆があると言うが、それはあまりにも突然だった。ベッドの中で横たわっていたワシは、忍び寄る何かの足音を聞き、暗がりでまだ熟睡しておらずドアを開く音。普段ではあり得ぬ。
刺客らしき者が剣を振り上げ、夜に輝く。ワシは慌てふためき、寝室から飛び出してドアを開いて、大声をあげるが、誰からの返答もなく凶器をぎらつかせた刺客に怯え、外に向かって逃走する。
いつの間にか人脈すら、いや、大臣の怪しい行動、今となってはハラに落ちる。処刑がこの日だったのだ。
ワシの言葉に青スジを浮かべた対応をする。まことに大臣は不愉快な男だった。根回しが実る、ついにワシが邪魔者になったのだろう、声をあげるが誰も反応しない。
ワシは王城を出ると城下町の道を走っていたが、大声を張り上げる。
「助けてくれー!!」
「王様!!」
どうやら町の人々は、まだ大丈夫なようだ、とはいえ暗殺をくわだてている男は、町の人から抵抗を受け撤退したは良かったが。
「王様なんだから、私達を助けてくれるのは当然、とりあえず謝礼金を要求するわ!!」
なんだと、情すら薄いのか、なんと言う事だ。ワシはお金を持ち合わせてはおらん、カードじゃからな。
それに大抵の決済は大臣。ふと思うとマジックポケットから王冠を取り出して、この失礼たが命を助けてくれた町人に渡す。このマジックポケットは魔法名で平行世界の袋みたいなものだ。
「命を救ってくれてありがとう」
町人の女性は。
「王冠。うわ、売れば、お高そう」
ワシは心貧しい町の女性を後にし、この王国は将来性がないなと思う。生まれてこのかた知識はあれど体験は少ない。
命があっただけでもものだねだろう、息を切らしながら外へ歩く、多分大臣のくわだてた下克上である。
町の外を見ると、珍妙な魔物が月明かりで輪郭を照らす。ワシは戦う術を持っていない、寝間着で素手、魔物の鋭い牙に勝てるわけがない。
必死に近寄らぬ様に、うかがいながら城と城下町を後にする。大臣が国王になるのなら王都追放と同じである。
ワシは途方にくれた。この世界で大きな町は1つしか無いのだから。
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