第1章 圭太

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 圭太は実写動画を組み合わせて作成した。夜の定食屋に入り、唐揚げ定食をカメラ撮影。シャッター音と共に、鎧を纏った戦士のキャラクターが画面端から現れ、くるりと回って白衣をまとう。  朝食、昼食と合わせてカロリー、栄養バランスを評価し、「今日の総合評価:82点」が表示される。  キャラクターがアップになり、 「よし、レベルアップだ!」と笑顔で言ったかと思うと身を翻し、草原でトカゲに似た大型モンスターとのバトル画面が表示される。  主人公を、さっきの戦士がサポートする。2人の戦士が光とともに強烈な連携技を繰り出したところでスクリーンは真っ白になり、締めにタイトル「ヤセルゥ」が映し出された。明るくなった部屋で洸太は言い放つ。 「これは、リアルの食生活が経験値になるゲームです。コンセプトは『キャラと一緒にダイエット!』」  基本はやはり王道RPG。だがバトルのサポートキャラクターと絆を深めて、連携技を繰り出すためには、毎日のログイン、そしてリアルでの食生活が評価される必要がある。  初期設定の時点でカメラから身長測定して、体重入力の時に無理なダイエットはやんわりと思いとどまらせるメッセージを流すようにした。そしてそれよりカロリー、栄養バランスに目を向けてもらう。 「食事を写真に撮るとカロリー計算して、栄養バランスとともに評価されます。ログイン時にキャラクターから褒められ、モチベーションを上げます。  食事は皆さん、毎日とりますよね。リアルの食生活と結びつけることで『これが経験値になるなら!』とユーザーが毎日ログインする仕組みにします。そして継続プレイにつなげてもらいます」    減量に成功してもゲームを続けてもらえるよう、体重は経験値に反映されない設定にする。  一方、目標カロリーを下回りすぎたり、バランスがよくないと、もらえる経験値は減り、キャラクターが心配するメッセージを送る。  この予防策を張ったことで安心してプレゼンできた。  何度も何度も、試行錯誤を繰り返して作ったプレゼンだ。昨夜は一人残業して、気づいたらうたた寝していた。夢の中、圭太は草原のフィールドで戦っていた。「VRみたいな夢だな」と1人で苦笑した。自分でも呆れるほど打ち込んだ日々。本来の仕事にプラスして忙しかったのに、不思議と疲れは感じなかった。積み重ねた結果を今日、出し切った。 「タイトルがダサい」「いっそRPGではなく恋愛ゲームにしては」と指摘も受けたが、お腹が目立ってきた中年の役員たちにウケがよかった。「やってみたい」という声も上がり、反応はまずまず。  また企画を組むことができた。それだけでも洸太は満足だった。もちろん、「あわよくば」という気持ちがないと思えばウソになる。  5分後、篠崎藍(しのさきあい)がプレゼンするまでは。
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