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ある街角に一軒の帽子店があった。
その店のある場所は駅前や商店街からも遠く、大きな通りに面してもいなかった。広告はもちろん看板すらも出していない。
帽子屋どころか商店とさえ気づかずに誰もが通り過ぎてしまうような細い通りの片隅にひっそりとその店は佇んでいた。だが、その店は我が国で、いや世界でも今や一、二を争う人気店だった。
いつからか、そこで売られている帽子を被ると、その人物はまるで人が変わったように社会の中で瞬く間に頭角を現す、つまり出世するという噂が世界中を駆け巡り、実際に世界を代表する多くの政界や財界のトップや芸能界のスター達がその店で作った帽子を愛用していた。
一つ一つの帽子はすべて顧客に合わせたオーダーメイドで、完成するまでにはおよそ三ヶ月の期間を要した。既に店の注文予約は三年先まで埋まっていたから、今から頼んでも帽子を受け取れるのは最短でも三年と三ヶ月後になってしまう。
それでも構わないという顧客が大半だったから、いかにその帽子店が繁盛していたかがわかるというものだ。店は店主と思しき五十歳半ばくらいの男が独りで営んでおり、その頭には店で作られた独特のデザインの帽子が載っていた。
しかし、帽子屋という商売は単なる表向きのもので、世を忍ぶ仮の姿に過ぎない。その店で製造し、売られていたのは帽子ではなく、帽子を装った小型のUFOだった。
そのUFOにはハムスターほどの大きさのチッペニ星人が一人ずつ乗り込み、それを帽子と信じて被る人間の脳を特殊な電波を出して操っていた。
この帽子屋の店主の男とて例外ではない。彼は実のところ帽子職人でも何でもなく、店の経営者ですらなかった。頭に載った帽子型のUFOからチッペニ星人が絶えず送る電波に従って動く奴隷に過ぎなかったのだ。
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