琥珀色の白銀

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ここは、ある小さな町だ。 町と言っても山、川、田畑に囲まれた、村のような所だ。 最近、近くにコンビニエンスストアという一日中開いている便利な店ができたが、俺としてはなんのメリットもない。 かと言って、デメリットもない。 親父はあそこに売っているおでんのすじ肉か、玉子でも誰かここに持ってきてくれたらなぁ、なんてのんびり言ってたが、こんな夜更けにそこてたむろしている若者達が、わざわざおでんを持って来るとは思えない。 何故ならここは神社だからだ。 それも銀狼…親父を祀っている。 でも、俺は見た目は普通の狼だ。名前は真狼(まろう)齢170歳。人間でいう、17歳くらいか。 まぁ、少し金色の毛に見えると言えばそう言えるけど、親父のような白銀の毛も、大きな力もなかった。 親父曰く、「お前には心が足りない」なんだそうで。 ………よく分からん。 小高い山にある神社の屋根からコンビニを見下ろし、俺はため息をつく。 白銀の大きな狼は屋根から飛び降り、数歩歩くと人間の姿に変幻した。 「おでんとジャンボソーセージ買って来る」 お金は、賽銭箱から拝借。 親父は両手を後ろで組んだまま、ひょいひょいと階段を降りて行った。 その姿はその辺の人間のオヤジと変わらなかった。 (いや、ちょっと、だいぶ筋肉質な見た目かな) いいなぁ、親父は。 ホントに立派だ。 でも、俺は「心が足りない」の意味も分からない。 そして、親父も教えてくれない。 母さんも、教えてくれない。 と言うより「言葉で説明しても、理解できないものなのよ」だとさ。
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