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転校生
その年の桜は見ていない。
きっと桜は咲いていなかったんだ。
こちらに引っ越してきて1ヶ月後、夏休みに入った。
早朝のラジオ体操を庭先でおばあちゃんとしてから、縁側で二度寝。
日差しの暑さに、直ぐに床の間の板の冷たさを求めてそこで眠る私を、おばあちゃんはいつも笑った。
「璃子ちゃん、お友達と遊んで来なさい。おばあちゃん、お小遣いあげるから。」
おばあちゃんは毎日500円玉をくれる。
「うん。ありがとう、そうする。」
私はそれを、台所にいつも出しっぱなしのおばあちゃんのお財布に返す。
それを夏休み最終日まで繰り返した。
友達沢山出来るかな♪
夏休み明けの9月は、うだるような暑さ延長を決め込んだ太陽とはお友達になっている。
まだこの学校に人間のお友達はいない。
授業が終わると、クラスに残り、校内をふらふらして、それから図書室へ行く。
ただ時間を潰すためだった。
その日もフラフラした後、まだまだ明るい夕方の空に嫌気をさしながら、中学校の門を出た。
「まだか…。」
私は送迎の車を待つ為に門の前に立った。
視線を上げると、道路の向かいにたむろしているグループが手招きしている。
首を左右に振ると、
「話したいことあるからーーーーっ。」
と大きな声で言われた。
めんどくさい…でも行かない方がめんどくさい事になるのは知っている。
仕方なく女子6人の塊へ足を進めた。
友達100人出来るかな♪
私はこの歌が大嫌い。
無意味だからだ。
「ウザい。」
塊になっている集団から先ずは私に発せられた言葉だ。
「自分で可愛いと思ってんのが顔に出てんだよ。」
「ぶってんな。」
「化粧してんだろ。」
「何人とやった?」
「男わけろ。」
全部中学三年生のこの女子6人の塊から私に放たれた言葉達だった。
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