仕込み

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仕込み

 餅巾着職人の師走の朝は早いーー。  朝4時に仕掛けたスマホの目覚ましを止めて体を起こす。シャッキリと目覚めた事を確認するためにカレンダーに目をやる。 「今日は12月9日木曜日……仏滅か……。」  体調は今日も万全、もう間もなく訪れる決戦の日に向けての仕込みに懸念はない。  まだ暗いうちに鍋の中で湧き上がった湯。その中に油揚げをくぐらせて、冷たい水で締める。油抜きの方法にはレンジアップであったり、お湯をかけるだけであったり様々な手法があるが、私はこの方法が油揚げのふっくらさを残す一番の方法だと思っている。  粗熱の取れた油揚げを包丁で半分に切り、その断面を広げて袋状にする。上物の油揚げを使うと、しっかりと中まで豆腐が残っていることが多い。味は良いかもしれないが、大量の巾着袋を作る上ではかなりの手間だ。故に私は、安価な油揚げを好む。  次々と重ねられた油揚げの巾着袋。ざっと30袋といったところだが、そのうちのいくつかは巾着袋としての役割を果たせない。自然に穴開きの袋ができてしまうのは避けられないからだ。これが高級な油揚げだったら、泣くに泣けない。もちろん、その割合も少ないのだろうが……。  私は巾着袋を選別し、穴あきの袋を小皿にとる。彼らは後に豚汁の油揚げとして生まれ変わるのだ。決して無駄な命ではない。
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