仕込み

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 ひとしきり巾着袋が出来上がったところで、次は巾着の中身だ。  まずはオーソドックスな餅巾着。私は個包装のパック餅の封を次々開ける。臼でついた餅がうまいのは言うまでもないが、ここはマンションの一室。昔ながらの餅つきとは縁遠い環境の私が選べるのは個包装のパック餅しかない。  しかし、決して悲観するなかれ。そのまま食べたり焼いて食べたりする場合にはつきたての餅が良いのは言うまでもないが、餅巾着であれば個包装のパック餅でも十分にうまい餅巾着になる。煮ることになる餅巾着はしっとりと柔らかくなり、また油揚げで包まれているので煮崩れの心配もない。  そう、餅巾着こそがパック餅を最高にうまく食べる手段なのだ。  全てのパック餅を封から出し切ると、手で角餅を半分に割っていく。便利なもので、個包装のパック餅は焼いた時に中央が膨らみやすいように十字のスリットが入っている。これがガイドとなり少し力を入れるだけで角餅が真っ二つに割れるのだ。  半分の各餅を20個ほど用意したら、次は梱包作業だ。先程用意した巾着状の油揚げに餅を詰めて楊枝で縫合し封をしていく。パスタを短くしたものや、干瓢で縛る方法もあるが、パスタは煮上がったあとに和風(・・)では違和感があるし、干瓢は何より面倒だ。いや、楊枝だゴミになるじゃないか、と人は言うだろう。しかし、私は餅巾着職人だ。故に楊枝は全て回収して洗って煮沸し再利用する。  もちろん、そんな仕事は多分存在しないのだが、私の餅巾着にこだわる姿勢は職人と言っても過言ではなかろう。いかに安く、うまい餅巾着を作るか。それが私に課せられた使命だと自負している。
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