12733人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
「あの!専務ですよね…?」
「そうだよ」
「いつも社員食堂利用しているんですか?」
「いや、今日が初めてだよ」
突然見知らぬ女性社員から話しかけられる。よく周りを見渡すと自分が目立っているようで他の社員からの視線が集中している。
目立つような恰好をしているわけでもないが仕方がない。
ちらりと視線を遠くへ移しはすみを探す。彼女たちはそれなりに近い距離にいた。手前の長テーブルを挟むように土浦と向かい合って楽しそうに喋っている。白身フライ定食を注文しそれがのったお盆を持ちながら彼女に向かって歩く。
本当に彼女は全く俺が眼中にないようで他の社員たちは俺に注ぐ視線を土浦に注いでいる。
彼女は俺のことが好きだといったがそれが俺のそれと同等か甚だ疑問だ。
「へぇ、土浦さんって子供は好きなんですね」
「好きではない。甥っ子が可愛いっていうだけ」
「意外~」
はすみの隣に腰かけるとようやく彼女が俺を見た。
驚きのあまり箸を落とした彼女に
「そんなに驚くことないだろ」
と返した。
土浦は相変わらずポーカーフェイスだ。だが、俺は事前に彼に伝えてある。
“はすみは直に俺の妻になる”と。最初は驚いている様子だったが腑に落ちた顔をしていたから何か思うことがあったのかもしれない。東京大学文学部卒業の優秀な社員であることは間違いないが、はすみを好きになられても困る。
「箸、取ってきます」
新しい箸を貰いに席を立った彼女の背中を見送り、白身フライを食べ始める。
最初のコメントを投稿しよう!