愛しきピンキーちゃん

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愛しきピンキーちゃん

* * * 「さあて皆々様、お酒のご準備はよろしいでしょうか」 「はあーい!」 「それではっ、クールンルン発表会の大成功を祝して、かんぱーい!」 「お疲れさまあ」 「イエーッ!」 設楽さんの掛け声で、グラスを合わせる小気味よい音が響く。 発表会の翌日、プロジェクトメンバーはいつもの居酒屋に集合していた。 あいにく類さんは、どうしても外せない予定があるとかで不参加だけど、また改めて機会を設けることになっている。 「七海ん、マジでお疲れだったね」 「設楽さんこそ、もしかして少し痩せました?」 「あー分かる? 実はこの数日で二キロ減」 「うわあ、本当にご苦労をおかけしました」 この件でいちばん煽りを食ったのは、なんといっても彼だと思う。 私たちの自宅謹慎中、専務をはじめとする経営陣は、なんとかクールンルンの規模を縮小しようとした。 けれども彼は、ありとあらゆる手を使って阻止してくれたのだ。 減産調整をするよう指示が出れば『工場責任者との打ち合わせが難航している』と嘘をつき、工場側には賄賂を渡し、口裏を合わせて貰う。 広告規模を縮小しろと言われれば、のらりくらりと逃げ回り、ついには社長室に呼びつけられたので、仕方なく、貧血でぶっ倒れ意識を失う――という名演技まで披露したそうだ。 「結果として、設楽さんのお陰で混乱を避けられましたけどね」 昨日行われた発表会は、来場希望者が殺到し、規模の縮小どころか、急遽大型の会場を手配する事態となった。 そのうえクールンルンのアイディアが予想以上の好評を得て、大幅増産が決定。 生産ラインを追加することになった。
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