13人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
野盗たちが走っているのである。それも、必死にアジトに向かって。
それは自分たちのアジトが燃えているために急いで戻っている、という風ではなく、自分たちの背後から迫る何かから死にもの狂いで逃げているような様子である。
「これって……」
「駐屯軍が来てる」
「へ……? 駐屯軍?」
イグナティオは説明するのが面倒なように、指で谷あいの向こうを指した。
与一が目を向けると、野盗の後ろに立つ砂ぼこりの奥に旗が見えた。白地に金糸で雌獅子が施された縦長の戦旗である。
「あれは……」
「詳しくは知らんが、恐らくバスラ城市の駐屯軍だろう。獅子なんて高貴な獣を家門の旗印に許されているお方なんぞ、そう多くはない」
「……味方ってことですかね」
「だろう。少なくとも今のところは」
吊り橋を渡りきると、元々与一たちが作戦を始める前に隠れていた岩陰からシグルディとカイマルズが顔を覗かせた。
シグルディはイグナティオの乗った馬に与一の姿を認めると、「兄貴いぃ!!!」と両手を広げて喜び上がり、岩陰から飛び出した。
イグナティオが馬を止めると、シグルディは、馬にしがみついてぐったりとしている与一の太ももに出血を見つけて、さらに「兄貴いぃい!?」と驚き喚いた。
「早く治療してやって下さい。かなりの出血です」
最初のコメントを投稿しよう!