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再び屋敷の門を潜り、敷地内に入ると嫁の姿は無かった。
声も聞こえない。
「居ないようですね?」
銀太は言った。
「嫁は僕がさっき囮になって、村の方に誘き寄せました。村には士鶴さん達も逃げた後で居ないので、きっとあのまま当分は村の中を人の姿を探して彷徨っているでしょう」
岩尾は言った。
確かに森から此処まで来るまで、嫁の姿はおろか、あの声すら聞こえ無かった。近くには居ないようだ。
それにしても、村まで行って、帰って来たならかなりの短時間だ。
しかも呪いの外にいるとは言え、嫁を巻いて戻って来たとは、やはり岩尾は只者ではないと銀太は確信した。
2人はそのまま真っ直ぐ土蔵に向かった。
特に土蔵に行こうと申し合わせた訳ではない。
お互いに、決着の場はあそこだと分かっているのだ。
「あれは!? 嫁が——!??」
土壁から抜き出されて、外に転がっている金庫を見て岩尾は驚く。
庭に立つ金庫は、どデカくて、四角くて、真っ黒で、まるでモノリスの様だ。
「あそこにあるのは、俺が涙牙にやらせました。」
「凄い!? 土壁の中から引き抜いて——。金庫だけでも1トン近くあるのに——」
「……。」
おかしな物言いである。まるで金庫の重さを知ってる様な口ぶりだが……。
銀太は気付かぬ顔で、そのまま話を続けた。
「まあ、その後、嫁も宙にぶん投げてましたけどね?」
「……えっ!? あれをですか……。」
一気に血の引いた顔をする岩尾。
「それより、土蔵の中のあれは?」
「……あれ? ですか?」
「取り敢えず、土蔵の中に入りましょう? あれを見ながら話ましょう」
土蔵に入り、さっきの騒ぎで散らばっている物を避けながら、奥へと進む。
陽はもう沈み初めて、室内はかなり暗いが、南側天井付近に付いた観音開扉から入ってくる最後の太陽の光でなんとか室内が見えた。
散乱物の中には、あのミイラもあった……。
岩尾はミイラに気付き、驚いた顔をして、じっと上から見つめていた。
「取り敢えず、今聞きたいのは、それじゃないです」
銀太はそう岩尾に言った時に気付く——。
ミイラの左手と折れた右手、折れた右手を元に戻したら、まるで両手で何かを大事そうに包んでいるような? 大きさで言えば野球ボール位か?
もし何かが握られていたなら——。さっきは暗さと、握られていて隠された状態であり分からなかったのか? それとも、たまたまこういう形に手がなっただけか?
もし何かを持っていたなら、何を持っていたのだ?
その辺に転がってはいないか? と、辺りを見回すが、さっきの騒ぎで散らばった物が多い。掻き分けて特定するには、時間が掛かりそうだ。
そもそも有るのかもどうかも、定かでは無い。
今はこの疑問は後にしよう。
——とにかく、一番奥の金庫の抜けた壁に進んだ。
金庫の抜けた後が四角い穴になっていて、そこに隣の土壁が幾らか崩れ混んでいた。
「こっちです」
そう言って銀太は崩れている土壁の表面を手で払うと、下から白い髑髏が半分顔を出していた。
銀太は何も言わずに、さっき使ったスコップで髑髏の埋まった土壁を、金庫の埋まっていた方から掘ってく。
「さっき、逃げる時に、ちらっとこの髑髏が見えたんです」
銀太は掘りながら言う。
髑髏を掘り出すと、髑髏の下から布に出て来た。それは服だった。
更に掘り進むと、男物のシャツとズボンが出て来て、その中には一体分の人骨が入っていた。丸々服を着た男が埋まっていた。
掘り終えると、その奥にはもう一体髑髏が見えた。
そしてその横にも、もう一体髑髏が——。
「一体、何体いるんだ!?」
思わず銀太はそう声を漏らす。
「……。」
「これの正体は、きっと会社の金を使い込んで蒸発したと噂されている重役達でしょう? 丑緒が死んだ時に、なんらかのトラブルが起きて、他の社員に殺されて此処に埋められたのでしょう? 金庫を埋める所までの作業を考えると、1人の犯行ではない」
「……。」
「おかしな事がある」
「おかしな事?」
「俺のニコマートがミラーが降りている。さっき此処に来た時は、降りなかった」
「ミラー?」
「ええ。俺のこのカメラの事です。一眼レフカメラです」
「一眼レフ?」
「知りませんか?」
「はい」
「俺のこのカメラは特別で、霊が近くに居るとミラーが下りるのです。また霊の宿った呪物でも。まあ、骨があっとしても、そこに霊がいなければ下りないのですが——」
と銀太はファインダーを覗いた。
「全部で5人居る。此処に霊が5人います。多分この骨の持ち主です。こんな風にミラーが反応しない理由。それは、ある種の封印のような物がされていて、霊自体が強く封じられてる場合——」
「はあ?」
「実は——」
「実は?」
「さっき居なかった霊が、此処に今居るのは確かなのですが、ミラーが降りたのは今じゃない」
「……今じゃない?」
「あなたに森で再開した時です」
「……。」
岩尾は苦虫を噛み潰したようでもあり、顔面蒼白でもあるような、何とも言えない顔をした。だが、その顔は明らかに、何か核心めいた物に、銀太が触れた事を表していた。
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