毛布、専務、過去の出来事

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(あずま)さん、点滴外しますよ。」 「………ふぁい……」 どこかの遠くの方で看護師さんの声が聞こえた気がするから、ひとまず返事だけしておく。 「晩くまで起きてたの?……ゆっくり休んでね。」 「………ふぁーい……」 目を開くことなく返事だけ返し、寝返りをうつ。 そして体を丸め、いい匂いのする毛布の中へもぞもぞと更に潜り込み、頭まですっぽりと毛布の中へ。 ……いい匂い…… ……あったかい…… このまま、ゆるゆると眠りの世界へ…… 二度寝ならぬ三度寝へ……。 気持ちよく微睡んで、眠ってしまおうとしたときだった。 「穴あきー、調子はどうだ?」 「!!」 突然の先生の声に、眠りの世界へ出かけようとしていた意識が『ただいまー』と一気に戻ってきた。 ぱちっと目を開けて、それはそれは、はっきりくっきりと頭も目も覚醒しちゃいましたよ。 「あ?寝てんのか?」 先生の声に、布団を被ったまま、目をパシパシと瞬かせて(しばたたかせて)しまう。 急いで『起きてます!』と布団から起き上がろうとしたけれど…… 「……遅くまで邪魔したし…。悪いことしちまったな…。」 すまなさそうな、優しい声。 ……えっ? ……ええっ!? 先生、そんなしおらしいこと言うの!? 布団の中で、静かに動揺するわたし。 そして先生は、布団の上からトントンと、わたしの背中をあやすように優しく叩いた。 ………どきんっ! 突然の優しい感触に、想像もしていなかった言葉と優しい手の感触に、胸が告知なしに大きな鼓動をうつ。 ……なに? ……これはなに? ドキドキドキと心臓が落ち着きなく騒いでる。 「……俺の毛布、使ってくれたんだな。」 嬉しそうな声色。 ……なんで? なんで、そんなに嬉しそうに呟くの? 寒いから使った。 ……それだけ。 …………そう、それだけ…。 ……だって、本当に、すごくすごく寒かったから……。 防寒のため。 ……それ以上の特別な理由なんてないんだから。
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