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ep.1
「大阪の展示会、ですか?」
共立ファイン株式会社――東京に本社を構える一流有名企業の製薬会社であり、全国だけでなく、海外にまで拠点を広げているいわゆる大企業だ。 その中でも会社の「顔」ともいえる営業部に所属する御堂和樹は、主に首都圏エリアを担当する営業一課の主任を務めている。
営業部長から渡された二つ折りのパンフレットを眺めながら問いかけた御堂に、部長は上機嫌で答えた。
「医療機関が集まる大事な展示会だから、ぜひ御堂くんにお願いしたくてね」
手元のパンフレットには部長が話す通り医薬品や医薬製造品、医療機器が集まる大きい展示会であることが書かれている。規模が大きいだけ、来場する人も医療に携わる人が多いということだ。どのような形でも、この場で案件が取れれば会社にとっても大きな利益になるだろう。
「わかりました。僕自身の経験にもなるのでぜひ行かせてください」
御堂とて、このようなチャンスは逃したくない。二つ返事で了承すれば、部長は表情を明るくした。
「さすが御堂くん。今回は上層部も期待をしているようでね。専門的な知識も必要だろうし開発関係の部署からも誰か同行するように伝えておくよ」
「助かります。他にも営業部から連れて行きたいので、僕から営業部で誰を連れていくかピックアップしてご報告しますね」
頼んだよ、と上機嫌のまま席を立った部長を見送り、御堂はぐるりとオフィスを見渡す。
(誰を連れていくかな……。こういうの、なかなか経験できないからなるべく若手に行かせたいけど)
「御堂主任、今度の営業先に持っていく提案資料、作ったのですが……」
「ん、どうした?」
そんなことを考えながら自分のデスクに戻れば、待ってましたと言わんばかりに部下――諏訪優斗が話しかけてきた。諏訪が渡してきた提案資料の素案を眺めて、和樹は静かにため息をつく。彼は営業部に配属されて3年目になる若手社員だった。
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