第二章 僕が彼氏です

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 翌日、悠誠に仕事のスケジュールを調整してもらい、三回忌に出席できるようにした。  幸い来週の土曜日だったため、金曜は残業や会食が入らないように、夜の予定をブロックしておいてもらう。  澪依は自分の喪服をどこに仕舞っていたか、家のクローゼットを思い出そうとしてふと、あることに気づく。 「そういえば、稲垣くん」 「はい」 「喪服って、持ってるの?」 「それが、今までそういうのに参加したことがなく、持ってないです」  やはり、思った通りだった。なかなか、機会がなければ、持っているようなものでもない。まだ時間はあるから、一式を買いに行った方がよさそうだ。 「じゃあ、今週末、買いに行かない?」 「そうですね。今の時代はレンタルもあるので、そっちで借りようと思っていて、実は昨日から調べてました」 「あ、そうなの」  久しぶりに一緒に出かけられると喜んだのも束の間、最近は結婚式のドレスなどと同様に喪服もレンタルできるらしい。  少しだけ、残念に思ってしまう。気持ちが表情に出ていたのか、悠誠がじっと澪依を見つめ、口を開いた。 「ですが、サイズとかは着てみた方がレンタルしやすいので、よかったら付き合ってもらえますか?」 「えっ……、行く!」 「ありがとうございます」  悠誠の口角が僅かに上がった。仕事中に表情を見せるのは珍しい。澪依は不意打ちの表情に思わず胸がきゅんと鳴り、ときめいてしまった。 「あ、あとご挨拶も兼ねて、何か手土産を持っていこうかと思っているので、それも一緒に選んでくれませんか?」 「ええ、いいわ」 「それじゃあ、今週末に宜しくお願いします」  悠誠がお辞儀をして、社長室を出ていこうとした時だった。控えめに社長室の扉がノックされた。 「どうぞ」  悠誠に扉を開けるよう視線を送る。 「失礼します」  外からの声を確認し、悠誠が扉を内側から開けた。 「あ……、社長、今お取り込み中でしたか?」  中から扉が開くと思わなかったのか、驚いたように女性社員が立ち竦んでいた。 「大丈夫、もう話は終わったから」 「はい。僕の用事はもう済みましたので」 「よかった。社長、今お時間少し宜しいでしょうか?」 「ええ。何かあった?」  悠誠は女性社員を中へ通してから、そっと部屋を出ていく。
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