5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
第一話
「ねぇ、瑛ちゃん」
「なぁに? れおくん」
「本と僕、どっちが好き?」
「ほんっ!」
幼馴染みである五歳の少女は、嬉しそうに即答した。きっと他意はない。純粋に好きなものを好きと答えたまでだ。だけど、頭では分かっていても、本人の口から直接聞くとやはり落ち込む。
「そっかぁ、本か……」
瑛の読む「本」になりたいと思ってしまうぐらいには、僕は彼女が好きだ。彼女を夢中にさせる本が憎い。羨ましい。
「はなね、れおくんの書くお話も好きだよ?」
彼女が首をかしげながら、僕を見上げる。そんなことを言われただけで、落ち込んでいた気持ちが意図も容易く払拭される。僕は彼女より三つ年上なのに、単純だ。だけど、ほんのりと心が温かくなる優しさに溢れた瑛の言葉が大好きなのだから、仕方ない。
それでも瑛にもっと「こっちを向いてほしい」と思う僕は欲張りだろうか。僕の書いた話を彼女が夢中になって読んでもらいたい。もっと言えば、僕に夢中になってほしい。
最初は、降り積もる雪のように溶けては消え、積もっては溶けて消え――――と繰り返していた。やがて、その雪が溶けずにどんどん高さを増して降り積もるみたいに、次第に彼女と一緒にいる時間が長くなるのと比例するように、彼女への気持ちが強くなっていった。
「瑛ちゃん。僕、将来作家になろうと思う」
気付いたら、そんなことを口走っていた。
「さっか?」
「そう、作家。お話をたくさん書く人。瑛ちゃんの好きな本を生み出す人のことだよ」
「えっ、いいね! はな、ぜったい読む!」
ぱっと花が咲いたような笑顔を向けてくる彼女。僕は、その眩しい笑顔に目を細めながら、心の中で秘かにある決意を固くした。
作家という夢を叶えたら、瑛に告白しよう。
必ず、本好きな彼女を夢中にさせる作品を生み出して見せる。
小学生ながらに将来を夢見た僕は、その日を境にたくさんの本を読むようになった。ジャンル問わず読み漁り、たくさんの物語を書いた。
最初のコメントを投稿しよう!