プロローグ

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プロローグ

 静かな深い夜。時折外から聞こえてくる虫の鳴く声。電気は全て消していて、部屋の中は闇に包まれている。寝息を立てている傍で、ふと何かの動く気配がした。 その何かの気配に、意識が浮上する。ゆっくりと目を開ける。部屋は変わらずしんとしており、目の前には普段からベッドの端に並べられているぬいぐるみたち。 何が動いたのか。感じた気配の正体を考える。しかしそれは一瞬のことだ。時計が見えないため時間はわからないが、夜遅い時間であることは確かだろう。 強い眠気がそれを主張している。もう一度目を閉じようとすると、再び何かの気配を感じた。心臓が高鳴る。寝返りを打ち、その気配を感じた方にゆっくりと向く。 今、動く何かの正体を突き止めようとしている。緊張で身体が固くなる。眠気はどこかへ飛んでいき、静かな空間に心臓の音だけが聞こえる。そして。  見つけた影に、思わず目を見開く。ベッドの傍に、自分を見下ろす少女がいた。ぱちっと目が合い、息が止まる。その少女は、気付いてもらえたことに喜ぶかのように小さく微笑んだ。 「あそぼ」  可愛らしい声が頭に響く。それ以外の音が世界から消えてしまったかのように。外で鳴く虫の声も、自分の心臓の音も、聞こえない。少女の声だけが、余韻を強く残していく。怖い。小さな手が向かってきて、頬に触れる。先程よりも大きく心臓が高鳴る。冷たい感触に、身体がびくりと動いた。
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