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図書館は好きだ。
本の香り、人声のない静かな空気。皆が目的を持って静かに自分の世界に閉じこもっているこの空間にいるときだけ、月人は自由な気がする。
今日のように土曜日の開館直後、しかも雨が降っていたりすると図書館は人もまばらで、窓際の席で月人は久しぶりにのびのびした気分で大きく伸びをした。
書架から持ってきた本をぱたりと閉じ、その上に肘をついて窓の外を見るともなしに眺める。
雨の雫が大きな窓を伝い、滑り落ちていく。音のない世界でただ落ちていくその雨の道を目に映し、月人はつらつらと思う。
今日は確か、双子の姉、風花(ふうか)の友達が家に来ているはずだ。友達と言っても本当に友達かどうかは怪しい。取り巻きに近いだろうけれど。
「ねえ、つき」
風花がそう呼ぶたび、月人は意識のスイッチを切るようにしている。
「どうせ暇でしょ。コンビニでフルーツあんみつ三つ買って来て。あ、だけど二丁目の交差点のところのにしてね。あそこにしかサクランボ入ってないやつ置いてないんだから」
好き勝手に注文して、最後にはにっこりと、
「三分以内。間に合わなかったら、あんたの大事な本を一分遅刻につき一冊ずつ燃やすわよ」
とか、条件が追加されたりするからだ。そして、おそらく風花は口だけでなく躊躇いもなく本を焼き捨てるだろう。友人が来ているときは特に要求は過酷になりやすい。
家にいれば面倒なことになりそうだし、今日は一日帰らないほうがいいだろうな、と結論づけたときだった。
ばさばさ、となにかが落下する音が聞こえた。
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