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好きだと自覚した日のことは忘れられない。
好きになったのはいつだったのか。
覚えていないほど昔。もしかしたら初めからだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。
ずっと昔から一緒にいたからその境界線にまるで気がつかなかった。その先の、その一歩を──いつの間にか踏み出していたことに。
だから。
「立夏、ちょっと話があるんだけど」
「えーなに、父さん」
小学校最後の夏休み、アイスを食べながらテレビを見ていたおれに何気ない一言を掛けてきた父親の言葉。
「父さん、実は、一緒に暮らしたい人がいるんだ」
「へっ?」
慌てて振り向いた。
ソファ越しに見る父親は照れくさそうに笑っていて──
「あのな…」
もしも。
もしも今、戻れるのなら。
あのとき。
その言葉の後に続く名前を知っていたら、…
「…え?」
こんなことになると知っていたら。
おれは全力でその場を逃げ出していたのに。
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