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「んむぅ?」
ニーマが起き上がると、その動きに合わせて布団がずり落ちた。寝ぼけ眼のまま薄暗い部屋の中をきょろきょろと見渡して、窓際に腰掛けたマオを捉えた。
「まお」
「起きたのか」
「・・・・・・んしょ」
未だに眠そうな顔を隠しもせずにニーマはベッドから降りるとふらふらとマオに近づく。ポンと倒れ込むようにマオの膝に倒れ込み、足を回してしがみついた。
「ちべたい」
「裸足でいるからだ・・・・・・全く」
仕方ない、とマオは眠気に負けそうなニーマを抱き上げて膝に座らせる。
「ニーマ」
「なぁに」
「・・・・・・お前は一体何者なんだ」
「なにもの? ニーマはニーマ」
コテン、と首が傾き、むずむずと頭を擦りつける。マオは止めさせようと子供の頭に手を置いたが、離すことはせずにそのまま何度か撫でつけた。
「お前は、魔王なのか?」
己の手から伝わる魔力の気配はマオの身に宿るものと同じだ。この子供の姿はマオの記憶から反映されているはずだ。だとすると、これはマオの中に宿る魔力から生み出されたのだろう。
しかし、マオがその存在を知り得ず、こうも自我がはっきりとしているということは思いつく可能性は一つしかない。
「お前が世界に死をもたらした魔王・・・・・・?」
こんなあどけない子供が?
信じ切れないマオの気持ちを後押しするように腕の中で子供がすり寄る。
「まお、あったかい」
「お前の方がぬくいよ」
甘えるように身体を預け、背中を叩いてやれば簡単に眠りに落ちる子供が、本当に?
「お前のせいで、俺はこうして・・・・・・」
つい恨みがましく出た言葉は途中でしぼむ。言ったところで、もう何も帰っては来ない。
諦めで身体から力が抜けた。
――こうやって結婚して下さいって
差し出された星の欠片が、照明を受けて随分と華やかに輝いて見えた。その光がマオを突き刺し、その向こうでじっと見つめてくる彼女の双眸が本当にそう願っているように見えた。
ただの真似事で、茶番に過ぎない。
それなのに、身体が前に乗り出そうと動きかけた。
「・・・・・・俺には受け取れないのにな」
例え手を伸ばしてそれに触れたとして、マオのこの手が葉月の差し出してくれたそれに触れた瞬間に、星の欠片は黒く朽ち果てて塵になってしまう。
後には何も残らない。葉月のくれたものも、何も。
真っ暗な空に向けて腕を伸ばしてみる。その向こうに彼女を見いだして、夢でしかあり得ない幻想を瞼の裏で思い起こす。
向けられた彼女の想いの証を、この手で受け取って同じものを差し出す。
あり得ない話だ。夢でも見ないようなそんな奇跡みたいな不可能な話。
葉月とマオでは住んでる世界が違う。違いすぎる。
背もたれに体重を預け、冷たい石壁によりかかる。真っ暗な空を眺めていつものように無為に時間をやり過ごす。
冷たい空気が身を包むと、葉月の世界との乖離が更に激しくなり、どれほどあちらが夢のような世界なのか知らしめてくれる。
マオはそうやって己を引き締めている。緩みが出て、この牙が彼女に向かうことがないように。あの日のようなことが、二度と繰り返されないように。
身体の芯まで凍るような、生命の気配のないこの空気に身を任せる。終わるときが来るまで、マオはそれを繰り返すだけである。
ただ、己の身体に寄り添う温かな熱と膝にかかる重さが、どこか心地よかった。
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