最終回 再びの誓いを、君に。(マオside)

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最終回 再びの誓いを、君に。(マオside)

「玲、これ。」 人目を避けるようにして、水辺になってる場所のベンチに来た。 座って、コートの内ポケットから薄い包みを出して玲に渡す俺。 言っとくけど、これはクリスマスプレゼントじゃない。 バースデープレゼントなのだ。 玲の誕生日は12月24日。 つまり、本日クリスマスイブなのだ。 過去も、今も。 玲は突然差し出された包みにキョトンとして、ソレと俺の顔を交互に見ている。 「誕生日、おめでとう。」 「…覚えてたんだ…?」 「当たり前じゃん。」 「…だって、マオが生まれてから初めてだから…。」 「それについてはまことに申し訳ございませんでした。」 「冗談だよ。」 玲は笑いながら包みの裏のシールを剥いだ。 そしてガサガサと包みを開けていく。 それから中を確認して、目を見張った。 「…え、これって…。」 それは、白い絹のハンカチだ。 玲のイニシャルを金糸で刺繍して貰っている。 玲は口を半開きにしながらそれを広げて、まじまじと眺めた。 そして次には 大切そうに胸に抱きしめて、その瞳から大粒の涙を流した。 「これをまた貰える日がくるなんて…。 ありがとう…ありがとう、大切にする。死ぬまで大切にするよ。」 「…うん。」 たかだかハンカチ如きで大袈裟だと思われるかな。でも、俺達2人にとって、このハンカチは前世と今を結ぶ思い出の品だ。 俺は昔、玲がレイだった頃にも誕生日に同じようなハンカチを送った事がある。 あの頃はこういった品は一部の貴族や金持ちにしか許されていない贅沢品で、庶民が気安く手を出せる金額の物じゃなかった。 俺も、何年も村中のあちこちの家で御用聞きや手伝いをして小銭を稼いだ。それがレイが18になる年にようやく目標額に達した。だから、知り合いの伝手を頼って街の服飾店のような店にオーダーに行ったのだ。 平民だったから、紹介でもなければ 金だけあっても門前払いされるかと思って、そうした。 ハンカチ一枚手に入れるのにすら、庶民はものすごく苦労する。そんな時代でもあった。間もなく戦争が始まったから、余計にそうなった。 なのに今では、学生の俺でも結構すんなり買えるし昔のように高額でもなくて逆にびっくりした。 でも、金額じゃなくて、俺が玲にこれを贈りたかったのは、この品を贈る意味が重要だったからだ。 貴方を愛しています。 俺はどうしてもその気持ちを込めた何かを、レイに贈りたかった。 そんなふうにプレゼントしたハンカチをレイはすごく喜んでくれた。その後それを肌身離さず大切に持っていてくれた事を知っている。だから俺はもう一度、同じ意味を贈りたかった。 あの時のハンカチがどうなったかなんて、数百年も経ってしまった今ではもうわからないけど、レイはきっと、最後迄それを離す事はなかったんじゃないかと思う。 「…俺、長生きするね。」 一頻り泣いた玲の涙と鼻水をポケットティッシュで拭ってやっていたら、何を思ったのかいきなり玲が決意表明をした。 え?なんて? 「何、急に。」 「だって、今生ってまあまあ歳が離れちゃったからさ。 今から健康に気をつけて、マオと同じ頃に死ぬように心掛けるよ。」 「心掛ける…」 「心掛ける。がんばるね。」 今迄に見た事ないくらい、すごい真面目な顔してる…。 これはあれだよね、応えてやらなきゃいけないやつだな。 そう判断した俺は、笑顔で握りこぶしを作って激励した。 「そっか、頑張れ。」 「ゥッ…何それ可愛い…ッ」 玲が心臓を押さえたので俺は無言で拳をそっと開いた。 玲の健康の為に、無駄なリアクションは避けようと固く誓う。 「玲、」 「ん?」 ハンカチを大切そうに仕舞い、俺の呼び掛けに顔を上げた彼の唇にキスをした。 外気にひんやり冷えた唇は、それでも柔らかい。 「俺、未だ年齢的に子供だけど、早く大人になるから。 もう少し、待っててね。」 だから、今はこれで我慢して。 そう言って、驚いて固まってる玲にもう一度キスをすると、今度は抱き寄せられて口付けが深くなった。 気持ち良い。 彼の唇は、何時も俺の胸をときめかせる。 俺に侵入してくる玲の舌の滑りがあの頃の懐かしい記憶を呼び起こす。 あの頃、朝に夕に願った。 戦いさえなければ、離れずに済むのにと。 戦さえなければ、明日の晩も共に食卓を囲めるのに、と。 あの頃願った世界に、今俺達は居る。 どうかこの平和が脅かされる事が無いように。 この平穏が壊される日が来ないように。 この幸せが、1秒でも長く続くように。 少し離れた道を行き来する人々の話し声に躊躇いながら、俺は玲の背中に腕を回す。 そして、明日も愛する人を抱き締められる世界であるよう、祈りながら目を閉じる。
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