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1「多弁、寡黙、衝動的な三人組(よそ見運転はやめましょう)」
世界が森に侵され初めて数世紀に渡る。
最初は不安を感じ足掻いていた人々もすっかりそれに慣れてしまった。
未だに広がりつつある森の驚異が過ぎ去った訳では無いのに。
慣れは怖い。
整備されていない道を木々をなぎ倒しながら大型キャンピングカーが突っ切っていく。
整備されていないといっても全く道がないという訳では無く、同じように車が通った後と推測される開けた部分を進んでいる。
だが獣道に違いは無い。
「ディープ、ストップストップストップううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
手すりを掴んでキャンピングカー上に乗っていた青年、ジュライが声を張り上げた。
顔を手で覆っても、ポニーテールにした長い髪になぎ倒した破片が直撃する。
「これ以上進んだら壊れる!!!壊れる!!!壊れる!!! ってこの馬鹿!!!!!!車止めろってええええええ!!!!!!」
悲痛な叫びがこだまするが、運転席の窓に腕を這わせているサングラスの青年はどこふく風だ。
ブレーキを踏む様子が毛の先ほどもないのが、片手で運転しながら鼻歌を歌う様子から見てとれる。
「止めろよ馬鹿ああああああ!!!!!! ソウルも見て無いでディープを止めろよおおおお!!!!!!」
助手席に座っている美しい薄水色の長い髪をした青年、ソウルは声の聞こえた窓の外に視線を向けた。
左手を持ち上げて親指から順番に数を数えるように折り曲げていくが、最後の小指で折り曲げる指を止める。
もごもごと小指を曲げたりしながら口を動かすも嘆息し言葉を飲み込むと腕組みをし直した。
そして何事も無かったかのように進行方向に目を向ける。
「どうしたソウル言いたい事がまとまらなかったのか? 相変わらず無口だなお前は。そこが良いとこなんだけど、まとまらなくたって俺は喋っていいと思うんだよな。何故かって、ほらお前が自分で全部喋らなくても途中まで聞いたやつが気付いてくれるかもしれないだろ。そういえばこないだ俺もさ」
「ディープうううううう!!!!!!!!!! 運転に集中しろおおおおおお!!!!!!!!!!! あと前みろまええええええええ!!!!!!!!!」
「なんだ良いとこなのにそんなに叫ばなくても運転には集中してる。どのくらい集中しているかっていうと」
「まえ」
絶叫に言い返し初めたディープの腕を即座に掴んだソウルがハンドルをきらせる。
眼前に巨木が迫っていた。
車体が大きく揺れて巨木を掠める。
車体を幹がひっかく甲高い音が響き、茂みに突っ込んだ。
勢いよく横倒しに倒れこむかと思われた車だが、幸い周囲の木々に阻まれたお陰で横転はせず茂みがスピードを殺してくれたお陰で無事停止した。
「おわっ!!!!!!!」
窓から赤毛の髪がまず降りてきて、逆さまの顔が車内を覗きこむ。
髪が全部下に降りたお陰で眼帯をした右目周辺に広がる火傷の痕がくっきりとグロテスクさをアピールしていた。
ねめつける目に愛想笑いを浮かべるディープにジュライがかける言葉は一つだけだ。
「歯、食いしばれ」
声は静かだが拳がわなわなと震えている。
「ほら、幸い誰もひいてないし車もこれなら全然損害はないしどうってこと無いだろ。今日もよい天気だし外に目を向けてそうだ散歩でも」
助手席のソウルが運転席から逃げようともがいているディープの肩を掴んで首を振る。
「いやいやいや今のは不運な偶然」
「事故が偶然でなくてたまるかあああああああああああ!!!!!!!!!!!」
森の中、更に並べ立てられる言い訳をかき消したのは元気の良い大声量と盛大な打撲音だった。
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