友達の話

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友達の話

 俺の大学の友達に、寺で育った奴がいる。  養子としてなのか、生みの親に捨てられたからなのか、詳しいことはわからないけど、どうやら物心ついた時には寺で生活をしていたんだと。  で、こいつ。寺で育てられたからか知らないけど、霊感みたいなモンがあるらしいんだよ。信じられないだろ?  ちなみに俺は未だに信じてない。何か俺の身の回りでおかしなことが起きたわけでもないし、テレビでよく言われてるような「霊感エピソード」なんてものもない。  仮に本当に霊感があったとしても俺はそいつとは友達でいるし、大学連中との飲み会があれば喜んで参加してる。  あの話を聞いたのも、飲みの席。  話の内容は、「呪い」について。  俺や、俺と同じように霊感なんてモンはこれっぽっちも持ち合わせていない奴の意見は「呪いなんてありっこない」だった。  問題の寺育ち。そいつの意見は「あるにはある」だった。  あるにはある? なんだそれって思うよな。俺らも同じことを思った。 「でもお前らが思ってるような呪いじゃない。そもそも呪いなんてあんまり気にしない方がいいかも」  おいおい。その「気にしない方がいいこと」も全部包み隠さず話すのが飲みの席だろ。俺は食い下がった。 「わかった。話すよ。そもそも呪いってな、言い換えれば『想い』の力だと俺は思ってる」 『想い』と言われて、みんな酒のペースを少し落とした。それっぽいことを言われると信じてなくても気になるよな。 「誰かを恨む、妬む、嫉む。こういう負の感情はわかりやすいだろ? みんながイメージする呪いってのは大体これ」  ここまでは俺でも理解できる。なんなら霊感があるとか、ソッチ方面の話に詳しくなくてもこのくらいなら誰でも話せる内容だ。 「よくある藁人形とか、呪いのビデオとか、そういうのも全部これ。呪う理由がわかりやすいしイメージもしやすいから、良くないことだけど対処はしやすい」  寺育ちがジョッキに残ったビールをグイっと飲み干した。 「問題は、正の感情が引き起こす呪い。これが厄介なんだよ。だって呪いをかけてる方は自覚がないことが多いからな」  ビールを飲み干した時点で話は終わったのかと一瞬思ったけど、そんなことはなかった。むしろここからが本番。  寺育ちはきっと、喉につっかえてたモンを流すためにビールをあおったんじゃねえかな。 「親の期待とか、忘れられない恋人とか、そういうのも呪いの一種なんだよ。元カノが好きだったものを見るたびに元カノのことを思い出して悲しくなるとか、元カノを忘れられなくてなかなか次のステップに進めないとかな」  なるほどな。そういうのも呪いなのか。俺らは自然と拍手を送ってた。  寺育ちは気分が良くなったのか、酒が苦手な奴が残したサワーを一気に飲み干した。  当然その場は盛り上がる。 「よおし。それじゃあもう一つ! お前らに呪いについて教えてやる」  寺育ちの目が据わる。 「なんでこの世に幽霊が居ると思う?」  俺らは誰も答えられなかった。わかるわけがない。だってそれがわかったら誰も怪談話なんてしようと思わないだろ。 「正解は墓があるから、だ。あ、今お前ら『はあ?』って思っただろ? いいから聞け。あのな、よくドラマとかなんかで言われるだろ? 『人は忘れられた時に死ぬ』ってよ。逆に言うとこれはな、『人に忘れられないと死ねない』ってことなんだよ」  やばい。そう思った時には全てが遅かった。もう寺育ちの口は止められない。 「なんで幽霊がいるか? それは俺たちが墓を作って、故人を悼み、想うからだ。  これは『成仏したくてもできない呪い』。俺たちは自覚なく、死者に呪いをかけているのさ」  飲み会はお開きになった。  俺は今でも、霊感みたいなモンは信じていない。いや、あいつの発言を信じたくないだけなのかもな。
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