夜のドライブ

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夜のドライブ

 これは俺が大学生のときの話。  俺は大学の新歓に参加していて、みんな酒をガブガブ飲んだりして盛り上がってた。 「イッキ! イッキ!」なんてノリで酒を飲んだりしてたわけ。今考えると危険だし、ガキみてえだな、なんて思うけど。  夜の11時を過ぎた辺りかな。飲み会も盛り上がりのピークに達してたときにふと、一人隅っこでうつむきながらビールをちびちび飲んでた女の子が目に入った。  なんでこんな盛り上がってんのに一人で飲んでるんだろう? なんて思ってさ。  なんか少し可哀想に思えて、思い切ってどうしたの? って声をかけてみたわけ。  声を掛けられて女の子が顔を上げた。これがまたとっても可愛い子なんだ。 で、その子が「いや、ちょっと……」って言うから、気分が悪いの? って聞いたんだけどどうも違うようだった。  少し考えたあと、もしかして……こういうの苦手? って聞くと彼女は小さく頷いたんだ。  実は言うと俺もこういうのは得意な方ではなかった。どうせ暇だし、断るよりは参加したほうが良いかな……程度の気持ちで参加していたんだ。  そのことを彼女に伝えると、彼女はやっと少し笑ってくれた。  その笑顔はすっごく可愛かったんだ。  そして俺はなぜか唐突にドライブに誘ってみよう、って思った。多分その笑顔にやられたのと、酔いが回ってていつもより積極的になってたんだと思う。(今考えると飲酒運転で完全にアウトだけど。)  彼女は俺が思っていたよりあっさりとOKしてくれた。このままずっと店にいるよりは、とのことですぐに出発することになった。  俺は友達に先に帰ると伝え、自分の注文した分の金を置いて彼女と店を出た。  それから俺と彼女は車の中でたわいもない話をしながらドライブをしていた。自分の趣味だったり、よく聞く音楽、ベタだけど食べ物の好物だったりと、結構楽しく会話していた。  ここで年齢を初めて知ったんだけど、彼女は俺と同い年だった。やっぱり同い年ってのは後輩や先輩とは違った何かを感じるもんで、俺と彼女はどんどん意気投合していって、ついには連絡先も交換した。  それで、なんでその話題になったのか、その経緯は全く覚えてないんだけど、話題が怖い話になったんだ。  霊的な怖い話だったり、つくりがやたらと上手くてゾッとする話だったり、意味がわかると怖い話なんてのもした。  彼女は怖い話を聞いたり話すのが好きらしくて、どんどんその話題は盛り上がっていった。その中でも一番盛り上がったというか、冷んやりとした空気になったのが、逆手拍手の話。  逆手拍手は普通の拍手とは逆、左右の手の甲でパチパチと手を鳴らす拍手のこと。これはいわゆるあの世の、もうすでに死んでしまった人が行う拍手らしい。 (これを読んでいる人も是非逆手拍手をやってみて欲しい。なんとなーく嫌な気分になると思う。)  逆手拍手の話があまりにも怖かったもんだから、俺は少し空気を変えようと思って夜景を見に行こうと彼女に提案した。  去年、サークルの仲間と肝試しで行った山がすごく綺麗な夜景が見られる、いわゆる穴場だったのを思い出したからだ。  これも彼女はOKしてくれた。ここで初めて俺は彼女をエスコートしてる気分になって、なかなかハイになっていた。  そして俺は車を山へと走らせ始めて、だいたい一時間ほどでその山のふもとに着いた。  でも、なぜかそのあたりで急に彼女が、「やっぱりやめない?」って言い出したんだ。理由を聞いても、彼女は「いや、なんとなく……」と、あやふやなことしか言わない。  俺はせっかくここまで来たんだから行こうよ、やましいことはしないから。と半ば強引に車を出発させて山を登り始めた。  それからは彼女は一言も口を聞いてくれず、中の空気は最悪だった。真っ暗な山の中だったから余計に。  それでもあの夜景を見れば少しは機嫌も直るかな? なんて思いながら走っていた。  山の中腹あたりだったかな、そこで彼女がいきなり、「止めて!」って言い始めた。  いよいよ俺もイライラしてきて、さっきからなんだよ? 嫌なら理由を言えよ! と、少し声を荒げてしまった。 「ごめん、それは言えない……言ったら……」と彼女は理由を言ってくれない。  それどころか、「私、こんなところに居たくないから帰る!」なんて言い出してついには車を降りて一人下山してしまった。  こんな夜の山を一人で帰るの? と思っていたが、そのときの俺は変な意地を張ってしまって、彼女を追いかけずにそのまま頂上まで車を走らせた。  頂上に着くと、あの夜景が去年観たときと同じように目に映った。  そこから見える夜景は本当に綺麗だった。気付けば俺は、彼女にも見せたかったなあ……なんてことを思っていた。  夜景を見ていたら、イライラも酔いもだいぶ治まってきた。で、気付いたんだけど、彼女は今真っ暗な山の中を一人で歩いている。  さすがに何もないとは言い切れない。というか何かあったらまずい。そう思って俺は急いで山を下り始めた。  こっちは車で、向こうは徒歩だ。少し飛ばせば彼女に追いつく。そこで謝って今日は家まで送ろう。そう思いながら車を走らせる。  どこまで彼女が山を下っているのかわからなかったから、とりあえずさっき彼女が降りた地点に車を停めた。よく目を凝らして周りを見渡すと……いた。  やはり山の暗闇の中一人で歩くのは怖かったのだろう。誰だって真っ暗な山に一人きりになったら怒りよりも恐怖を感じる。  俺は車の中で必死に謝った。まだ少し怒っているのか、うつむいたまま何も話してくれない。それでも、拒絶されずに車に乗ってくれただけマシだった。  車が発進すると同時に、俺は音楽をかける。さっき彼女が言っていた好きなバンドの曲だ。これで機嫌を直してくれれば、そう思っていたら隣から、パチ、パチ、と手拍子が鳴った。良かった、少しは機嫌が直ったのかな。  やっぱこの曲良いよね。なんて言いながら車を走らせる。そのとき、電話のケータイが大きな音を鳴らした。なんだよこんな時に、そう思ってケータイを手に取る。  ——画面には彼女の名前。  えっ? なんで? 今、助手席にいるじゃん! 俺はゆっくりと、助手席の方に目をやる。  ……そこには左右の手の甲を打ち付けながら笑っている、見たこともない女が座っていた。
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