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出会い
時刻は十八時をまわったところだ。
店の正面に見える、五階建てのビル。
そこに灯る灯りに視線を向けた利川ゆこは、作業の手を止め、んーっと伸びをして身体の力を抜いた。
彼女が座るのはガラス張りの店構えの内側、ディスプレイから少し離れた場所にちょこんと置かれた、丸い木製テーブルとセットの一人がけのソファの上だ。
テーブルの上には、カラフルな毛糸がいくつか転がっている。
ここは縦に奥行きが広い、十坪にも満たないが明るく柔らかな印象の店の中。
随分集中していた為、ゆこは固まっていた肩をゆっくりと回した。
目もしばしばしたが、テーブルの端にはその労力に見合った可愛らしいコースターが何枚も仕上がっていた。
腰を伸ばしながらゆっくりと立ち上がると、小さな籐のカゴにそっとそれを並べた。
大きめのマスクの下のゆこの白い頬が、ふんわりと微笑みに緩む。
「りかせんせーい!」
その時まだ舌足らずな可愛らしい声と同時に、店のドアが開いた。
「こんばんは、龍くん」
三歳の龍は、この近くで働く実里の一人息子だ。
後ろから追いかけるように入ってきた実里は、
青いサテンのドレスに見事な巻き毛を揺らして、小さく頭を下げた。
「りか先生、今日もよろしくお願いします」
ゆ子の店「Secret base」は三階建ての細長いビルの一階にある。
その二階は、無認可の託児所だ。
ゆこは先生と呼ばれているが免許は無い。
そこには二名の保育士が居るのだが。
立地上子供達の出入りの際に手伝えることは手助けをしているゆこの事も、周りは先生と呼んでくれる様になった。
利川がくずれて「りか先生」だ。
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