身体から始まる契約結婚

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橙色から藍色に移り変わっていく夕焼けの空を眺めながら、私は満足した気持ちでカジノに向かっていた。 白亜の宮殿風の建物が夜の帷を華麗に彩る。 ーーーーカジノ・ド・モンテカルロ。言わずと知れたモンテカルロの由緒正しいカジノだ。 深紅に染まったエンパイアラインのワンピースが私を優美に着飾ってくれる。 ちょっとだけ強くなったような気がして、心が浮き足立った。 しかし、それが良くなかったのかもしれない。 数時間も経った頃には、私の手元にはほとんどチップが残っていなかった。 「く、悔しい……!」 サーバーから受け取ったワインをぐいっと飲み干した。 ディーラーの挑戦的な笑顔に煽られて、気が付けばさらにチップを賭けていた。 カジノから出る頃には赤ワインを飲みすぎたせいでぽわぽわと夢見心地になっていた。 夜の潮風が少しだけ頬の熱を冷ます。 NATORIホテルグループのロゴマークが慎ましやかに、けれどもしっかりと主張された五つ星ホテルにふらふらと向かう。 「スウィートなルームが、私を待っている……うふふ」 カードキーを鞄から取り出すときには、自然と愉快な気持ちになっていた。 やけに楽しくて、だから気付かなかった。 私がカードキーを扉に差し込めていなかったことにも。 何故かそれでも扉が開いてしまったことにも。 私は歪む世界を千鳥足でステップしながら、ふかふかのキングサイズのベッドに飛び込んだ。 高級羽毛の柔らかさが私を包み込む。 メイクも落としていないし、ドレスも着たままだけど、まぁ、いっかぁ〜。 もぞもぞと掛け布団を手繰り寄せ、中に入った私はそこに何かが既にあることに気がついた。 ごつごつとした固さがあって、でもしっとりとした表面をしたそこは肌馴染みが良かった。 程よく熱が籠ったその場所に私は身体を寄せた。 「っ、だれだ……」 掠れた艶っぽい声が聞こえて、私は重たい瞼を持ち上げた。 ぼぅっとした視界の向こうに誰かの気配がしている。 「あぁ、これ、身体か……」 裸で眠る彼の腹筋と胸筋を、私の手が行ったり来たりしている。 それをどこか他人事のように見ていた。
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