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 県立野羽(のば)高校の民俗学研究部。そこは幽霊部員の巣窟だ。  活動熱心なのは僕と部長の二人だけ。あとの部員はおしなべて籍を置いているだけで、部室にはちっとも顔を出しやしない。  帰宅部であることに抵抗はあるけれど、めんどくさい活動もまた願い下げ。そういった連中の、まぁ言ってみれば寄り合い所帯だ。  賢明なる読者諸氏は、こう思うかもしれない──そんな部員ばっかりなのだから、さぞかし意識の低い、いつお取り潰しになってもおかしくない部活なのだろう。  ところがどっこい、これでけっこう忙しいのだ。  僕たちの主な活動内容は、我らが学び舎ないしその周辺で起こった怪事件の調査である。  そういう土地柄なのか、それとも皆よっぽど怖い噂に飢えているのか。持ち込まれる事件は実に多岐にわたる。三階の女子トイレの三番目の個室から聞こえてくる花子さんの声に、音楽室の動く肖像画。校庭に唐突に現れたミステリーサークル。駐輪場で目撃された怪人カシマさん。果ては近くの大学から脱走した人面犬まで。  調査記録のファイルを読み返すたびに、僕は頭が痛くなる──いったいこれのどこが民俗学なんだ、と。こりゃどう考えても、オカ研ことオカルト研究部の管轄じゃないか。  僕が思う民俗学ってやつは、柳田國男が『遠野物語』で描いた、恐ろしくも心暖まる世界なのだ。ありきたりな都市伝説や、二言目には「呪われる」だの「殺される」だのと続く殺伐たる学校の怪談なんて、はっきり言ってお呼びじゃない。  けれどもそんな部員の嘆きなんてどこ吹く風。我が部には今日も調査依頼が舞い込んでくる。女子が持ち込むこともあれば、男子の日もある。時には先生までもが「おう、こんな噂があるんだけど、ちょいと調べてみてくれや」なんてやって来る。  誰が言い出したか──僕らにつけられた傍迷惑なあだ名は、心霊探偵。
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