第二章

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* 「あ、化粧室チェックしてきていいですか」  化粧室の案内が目に入った。前回も確認済みだが、エターナルの化粧室は構造上の問題でフロア内にはなく、階段を上るか下るかした位置にある。つまり上フロアと下フロアの間の踊り場の部分。これが割と面倒だ。だが、直したくても建て直すレベルの大規模改修が必要になる。幸いナローズは売り場ごとに備えられている。クライアントがエターナルじゃなくてよかった、と少しホッとしながら、化粧室のドアを開けた。  掃除は定期的に行われ清潔感はそれなりにあるが、いかにもトイレという感じで、それはナローズも同じこと。後付けしたおむつ台や化粧直しの為の鏡など、最低限揃えましたという程度。十分といえば十分だが。  手を洗いながら鏡を覗くと、無意識に思い描いていた自分の顔と差があって驚く。こんなに疲れた顔を楠木に見せていたのかと軽くショックを受ける。たった今服を試着した時は逆に盛れてるぐらいだったのに、現実はこっちだったか――。  化粧を簡単に直しながら、そういえば昨日ナローズで鏡に映った顔にもショックを受けたな、と思い出した。   * 「こちらナスとベーコンのトマトソースです」    あ、私です、と詩織が手を上げ、目の前にパスタの乗った皿が置かれる。楠木はスタミナなんとかというがっつり系のパスタだ。  4階。フードコートではなくチェーン系のパスタ屋に入ってみたが、席の大半が埋まっていてにぎやかだ。この辺りにくると周辺に店の数が減る為、食事目当てで訪れる客も多いようだ。 「結局買い物しただけで終わってしまいました……」 「気に入ったのが買えてよかっただろ」  それはそうだが、試験の前日に突然部屋の片付けを始めて時間を失ってしまった時のような罪悪感を感じる。 「お前はちょっと真面目過ぎる。羽村を見習えとは口が裂けても言わないが、あれぐらい図太く無神経でも生きてるんだ、少し力を抜いてみろ」    まさか仕事人間の楠木にそんな風に言われる日がくるとは、詩織は目を丸くしてフォークを回す手を止めた。 「私、そんなに余裕ないように見えますか」
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