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「ありがと」
「なにが?」
「私が突っ走った時に、我慢してくれたでしょ」
「ああ――あれな」
思い当たったのか、朝陽が苦笑う。
「俺的には押し倒せばよかったって結構後悔してる案件」
「せっかく褒めてるのに」
軽く睨むと冗談とも本気ともつかない笑顔で受け流される。
「勘が当たったんだな。大物を攻略するには楽じゃなさそうな道を選んだ方がいいんだよ」
「攻略本は見ないって話?」
「そ。まあ、あの時はもうすぐゴールだと思ってたところに突然落とし穴ががあらわれて、振りだしに戻された気分だったけど」
「なんか、ほんとごめん」
「いいよ、『強くて最初から』だと最強なんだよ。これからは何があっても攻略できる自信ある」
「そうなんだ」
ゲームの話はよくわからないけれど、いつのまにか朝陽の指が夏希の手を捉え、指を絡ませてくる。いつも右手の薬指の指輪の感触を確かめるように撫でるのだけれど、今日は何もない左手の薬指の感触を楽しむように撫でている。
いつかそこに指輪を嵌める日がくるのだろうか。
できれば左手の薬指の相手は朝陽であってほしいけれど。今はそれよりも。
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