序. 雪夜

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序. 雪夜

それは、すっかり冬が深まったある夜のこと。 空からは、はらはらと粉雪が降り落ちそれは樹々に纏わりつき、地面や家屋の屋根を白く染め上げていた。 時折「ヒュゥゥゥゥウウウウ!!」と荒れた冷たい風が一陣吹き、家の屋根や壁をガタガタと激しく揺らす。 人里離れたこの二階建ての農家も例外ではなかった。 だがこの家では吹雪と、それが家を揺らす音の他にもう一つ別の音が発せられていた。 一階の奥の部屋から何やら「ギリギリ・・・」と乾いた音がする。 この家の住人がしめ縄でも結んでいるのだろうか? だが耳を凝らすと絞めるような音の他にもう一つ別の音がしている。 「くっ・・・かは・・・いっ・・・」 それは少女の呻き声だった。 年は五つか六つだろうか。 必死になって絞られた喉に空気を取り込もうとしているみたいだ。 やがて薄く張られた雪雲から月が顔を見せ、微かな光が家の中を照らす。 月明かりが照らし出したのは世にも恐ろしい光景だった。 年端もいかない若い女が馬乗りになって自分よりも十は年下であろう幼子の首を、鬼のような形相で絞め上げていた。 少女は自分の首を絞める女の手をどうにか振りほどこうと女の手首を弱々しく叩く。 次第に苦しみでバタついていた少女の足から力が抜け、顔が紫に変色し始めた。 少女の命は今まさに尽きようとしていた。 ところが女は少女の首を絞める力を一向に弱めず、瑠璃色に染まった瞳をぎらつかせて彼女の息の根を止めようとしていた。 その時、女は少女の口からを聞いた。 女はその言葉によって我を取り戻し、少女の首を絞めるのを止めた。 激しく動揺しながら少女の身体を揺すり、彼女の目を覚まさせようとする女。 そんな彼女の期待空しく、少女の身体は部屋の床で小刻みに揺れるばかりで自分から動く気配は全くなかった。 やがて女は自分がしてしまった行いに取り乱し、両手で頭をかき乱し始めた。 「あっ・・・ああ・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」 両手で頭を抱え、身体を震わせながら絶叫する女。 彼女の姿と悲鳴は吹き荒れる冬の嵐に溶けるように聞こえていき、とうとう全く見えなくなってしまった。
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