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第1章. 始まり
〜東京都足立区〜
高層マンションのベランダで、流星はいつもの様に、天体観測をしていた。
この冬1番の寒波が去り、日陰にはまだ雪が残っているものの、空に雲はない。
19:00。
南東の空に向けて、オリオン座に輝く、赤い超巨星「ベテルギウス」を探す。
「あれ?おかしいな…」
「流星、ご飯だからおいで」
母親の呼ぶ声に、即座に反応して中へ入る。
今夜は、家族による父親の歓送会であった。
父の枕崎大知は、宇宙飛行士であり、3日後に鹿児島の南、種子島宇宙センターから、宇宙へ飛び発つ。
「パパ、今度は何をしに行くの?」
宇宙へは2度目の大知。
今回のミッションは、国連各国と進めている、巨大宇宙ステーション『Noah計画』への参加であった。
「宇宙ステーションの実験に行くんだよ。流星が大人になった頃には、住めるかも知れないな」
「そこは、望遠鏡で見えるの?」
「地球を1日に約16周しているから、夜なら見えるはずだよ。望遠鏡じゃなくてもね」
地上から約400km上空を、時速2万8千km程で進むため、望遠鏡の拡大された視界より、肉眼の方が、発見し易いのである。
「そう言えばパパ、今夜はオリオン座のベテルギウスが見えないんだ。シリウスとプロキオンはいつも通り見えたんだけど」
「冬の大三角か、おかしいな…一等星の恒星で寿命が近いとは聞いているが、まだ爆発したという話しはない」
息子が見付けられない筈もない。
「ほらほら、食事の時ぐらい宇宙は置いといて、楽しみましょ」
すると来客を告げる、ロケットミュージック(映画2001年宇宙の旅、オープニングより)が流れた。
「あら?誰かしら、あなた予定は?」
「いや、聞いていないが…」
モニターを見た妻の真弓が驚き、慌てて玄関へ急ぐ。
「ど、どうぞ💦」
「こんばんは、突然お邪魔してすみません」
その声に大知と流星も出て来た。
「ラブさん❣️」
世界的な大スター、トーイ・ラブがいた。
「ご家族のせっかくの夜を、邪魔するつもりはありません。ただこれをお届けしたくて」
コンパクトな箱を3つ渡すラブ。
ラブが経営するTERRAコーポレーションも、このプロジェクトには多額の出資と、技術供与をしていたのである。
「これは、小型の通信機で、いつでも3人で通話できます。今回は約3ケ月間となりますので、心配でしょう。良かったらお使いください。宇宙では太陽光で、地球では普通に充電してもらえればいいです」
「そんな、わざわざありがとうございます。どうぞ良かったら、上がって下さい」
「いえ、大切な時間ですから、私はこれで失礼します。流星さん…だったかな?」
「はい!」
「君のお父さんは、世界のために凄いことに参加してるんだよ。君も、いい目をしてるね」
「こいつ、将来は宇宙飛行士になるつもりらしいんですよ」
「そうなんだ〜。頑張ってね❣️」
流星と握手を交わす笑顔のラブ。
子供は頼れる者に遠慮はしない。
「ラブさん、オリオン座のベテルギウスが見えないんです」
「えっ?」
「こら、いきなり何を言ってるんだ」
「いいんです、大知さん。教えてくれてありがとうね。では、お邪魔しました。宇宙での活躍を期待しています」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「おやすみなさい」
丁寧に玄関のドアを閉める。
ふと南東の空を見上げ、車に乗り込む。
「アイ、T2、確かにベテルギウスが見えない。念の為に調べといて」
TERRAのマザーシステムAIと、分析やメカに長けたラブの右腕、T2に指示を送る。
外れることのない、嫌な予感がした。
大きな発見は、意外に些細な気付きや、偶然から始まるものである。
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