【番外】新婚旅行

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 行き先は、雫の希望で屋久島だ。 「生きているうちに一度でいいから行きたかった」らしい。  北の離島から南の離島なので、距離があり時間もかかる。札幌で一泊し飛行機で乗り継ぎ、到着するまでに二日かかる。 「海外の方が近いね」と笑う。  余程行きたい理由があるのだろう、その証拠に雫は始終ニコニコで「みーちゃん、楽しいね」と笑いかけてくる。  可愛い……つられて私も笑顔になるが、私の場合はデレデレで可愛くはないだろうな。 「はぁ〜着いた」  プロペラ機を降りて、到着ロビーまで歩く。夕方だがまだ明るい。  晴れてはいるが、高くそびえる山の上の方には黒い雲がかかっていた。  狭い到着ロビーを抜けると、レンタカー会社の人が待っていてくれた。すぐ近くだが車で送ってくれるという。 「屋久島は初めてですか?」 「はい、ずっと来たかったんです、世界遺産の島に」 「ありがとうございます、どちらに行かれる予定なんですか?」 「苔が好きなので、苔むす森には行きたいなって」 「もののけ姫のモデルになったと言われてますね、是非楽しんで来てください」  短い送迎の時間でそんな会話をして、レンタカーを借りる。 「基本的にこの道がずっと続いて島一周してますから」  という簡単な説明をされて送り出された。カーナビも付いているから問題はないが、離島はやはりのんびりしている。 「みーちゃん、運転お願いしていい?」 「いいよ」 「やった」  もちろんそのつもりだったから、そんなに喜ぶなんて思ってなくて雫の顔を見たら、はにかんでいた。 「運転する横顔を見ていたいから」  と小声で言う。 「なっ、そんなに好きなの、私のこと」  照れ隠しで言ってしまって、逆に恥ずかしくなり、窓を少し開けてアクセルを踏んだ。 「好きだよ」  風の音のせいで、微かに聞こえた声は愛しい人のもので。  そうだ、これからしばらくは二人きり、照れる必要なんてないんだもの。 「私もだよ」  風に負けないくらいの大きさで伝えてみる。  少し走ると海が見えてきた、もうすぐ陽が沈む南の島の風景を、心に刻んだ。
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