ありふれた恋の話

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 俺──錦戸梓真(にしきどあずま)中津心(なかつしん)がよく話すようになったのは高校一年の春、同じ図書委員になったのが切っ掛けだった。  クラスも同じだったけど、自己紹介の時の心は取り立てて印象に残らない、ごく普通の生徒だった。敢えて言うならわりと背が低い方だってことくらいか。  その平凡男子と同じ委員になって昼休みと放課後の本の貸し出し当番を一緒にやるうちに、自然と言葉を交わすようになった。 「中津は本好きなのか? こないだの当番の時自分で借りてたし」 「うん。小説中心に色々読むよ」 「へぇ、すごいな」  客がいなくて暇なカウンターの中で適当に相槌を打つ。 「俺なんて字ィばっかの本開くとすぐ眠くなる」 「それでいいんじゃない?」  笑い混じりにさらりと、心は呟いた。 「好きも嫌いも得手不得手も、それぞれその人の個性じゃん。十人十色、みんな違ってみんないい、ってね」  その言葉を聞いた時、不意に昔の記憶がフラッシュバックした。
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