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歩道の真ん中で羽を、目を閉じた鳩が仰向けになっている。 死んでいるのか動かない。 青空が鳩を照らす。 その上を鳩を避けるようにして、大股で学生服を着た生徒たちが歩いていく。 紺色の学生服を着た生徒たちは〇〇中学校と立て札のされた校門の間を入っていく。 1階廊下。教室の扉の上に3年1組と札がある。 教室の中。生徒たちがおのおの話をしている。 俯き加減で歩く男子生徒が一人後ろの扉から教室に入る。 教室の後ろは横開きのロッカーが端まで、生徒の数だけだろうか、置かれている。男子生徒がロッカーの真ん中まで歩くと、背の高い男子生徒が近づいて彼を蹴り飛ばす。 教室後ろのスチールロッカーに叩きつけられた彼。衝撃音で教室が静まる。 「どこ行ってたの叶多くん」 叶多を蹴った背の高い大柄の男子生徒が言う。制服のネームプレートには原と書かれている。 その後ろから普通体型の男子生徒二人が姿を表す。それぞれ伊藤と丹治と制服のネームプレートに名前が書かれている。彼らは蹴られてロッカーの前でうずくまる叶多の周りを囲い込むようにして見下ろす。 「あ、ごめん。痛かった?」 半笑いの原が言う。 うずくまっていた叶多は床に手を着きなんとか立ち上がろうとしていた。その彼の丸まった背中を原は靴の裏で押し倒す。 叶多はまた立ち上がろうとする。 原は靴の裏で押す。 叶多は立ち上がろうとする。 原は靴の裏で押す。 立ち上がろうとする。 靴の裏で押す。 立つ。 押す。 立つ。 押す。 立つ。 押す。 原と丹治は笑う。 教室のチャイムが鳴る。 3人が離れる。 叶多は立ち上がり、ホコリまみれのズボンの膝を手で叩く。 教室の真ん中の席に座る叶多の周りを原と丹治、伊藤が囲む。 原が膝で叶多の脇腹を蹴ると、叶多は両手で原の体を押し返す。 「うわっ」 声を上げる原。 叶多の手が触れたお腹あたりを汚いものを払うようにして手で叩く。 「やべえ、ベトベトする」 原は笑う。便乗した丹治も「きたねえ」と手を叩いて笑う。 四つん這いで床に押さえつけられた叶多の顎先を叶多が蹴り上げる。解放された叶多は蹴られた顎を抑え、苦痛に顔を歪める。 その様子が面白かったのか、見下ろしていた原と丹治は笑う。 教室の前の扉から担任の先生が教科書を持って入ってくる。気づいた原と丹治は彼から離れていく。その二人についていくように伊藤も叶多から離れていく。 うずくまる叶多を見る先生。 次の授業の時間を知らせるチャイムが鳴ると、まるで叶多の姿を隠すように教室にいた生徒が全員起立する。 起立、礼、着席。 蹲っていた叶多はゆっくり立ち上がり、自分の机に座ると授業で使うらしい教科書を机から出していく。 ノートを開く。 赤い2つの斑点が現れる。 叶多の口の端から一本線に血が滴っていた。 授業後、男子トイレの水道にやってきた叶多。 洗面台の蛇口をひねり水を出すとそこに向かって口から何かを吐き出す。 水は赤く染まり渦を巻いて流れていく。 先程、教室で原に蹴られた際に口の中を切ってしまったらしい。 叶多は両手で水を組み、口に含み、吐き出す。 誰もいない男子便所の中で叶多が吐き出す水の音だけが聞こえる。 それをぶち壊すようにトイレの入り口のドアが勢いよく開く。 入ってきたのは原と丹治、伊藤。 原は叶多の姿が目に入ると、叶多の後ろから肩に手を回した。 「なにしてるの叶多くん」 肩に腕を回された叶多は肩をびくつかせる。 「喉が渇いたの?」 叶多の耳元で原が言う。 「おいしい水あるよ」 叶多の肩に手を回したまま原は男子トイレの奥にある個室に連れて行く。 「ほら、飲みなよ」 個室に設置された洋式トイレを顎で指す。 「いやだ」 叶多は原の腕の中から逃れようと、原の腕を剥がそうとするが、相手のほうが力があるのか原の腕は叶多の腕から離れそうにない。 「喉乾いたんでしょ?」 原は叶多の頭を便所の中に押し込もうとする。抵抗する叶多を丹治が押さえつけ、身動きが取れなくなった叶多は顔を便所の水面に押し込まれる。
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